しずおか・このひと

「文化」となった大道芸の灯つなぐ 大道芸W杯実行委員長、杉山元さん(67)

大道芸ワールドカップ実行委員長、杉山元さん=令和2年11月4日、静岡市(今村義丈撮影)
大道芸ワールドカップ実行委員長、杉山元さん=令和2年11月4日、静岡市(今村義丈撮影)

 新型コロナウイルスの影響で初の延期を余儀なくされた、静岡市の秋の風物詩「大道芸ワールドカップ(W杯)in静岡」。平成4年の第1回から毎年、市中心部のいたるところで世界レベルのパフォーマンスに沸いていただけに、街にはさびしい静けさが広がるが、関係者は大道芸の灯をつなごうと地道な努力を続けている。13年の第10回から実行委員長を務めている杉山元さん(67)に、改めてW杯の29年間の歩みを聞いた。(今村義丈)

 --延期後の活動状況は

 「苦渋の決断でしたが、誰もが安心して楽しめてこその大道芸。W杯のコンセプト『まちは劇場』は演者と観客がごちゃまぜで盛り上がる『3密』そのものでもあり、やむを得なかった。でも、地元の大道芸人が幼稚園を巡業してくれたり、静岡市内の専門学校生が例年デザインするポスター展は開いたりと、コロナ対策を重ねた上でできる範囲で盛り上げています」

 「静岡に『文化』として根付いていたんだと再認識する機会にもなりました。本当に多くの人に残念だと声をかけられる。延べ約400組が出場してきた海外アーティストからは『シズオカに必ずまた来る』と温かい動画メッセージが届いた。うれしいことです」

 --W杯の特徴は

 「審査の『静岡方式』に象徴されると思います。約25人の市民審査員をはじめとして『1千円持っていたらこのパフォーマンスにいくら投げ銭をするか』という初回からの伝統ですが、面白いか面白くないかを決めるのは観客、しかも静岡市民。単に見るだけでなく参加している。大道芸人からしても、チャンピオンを決する場は世界的にまだ珍しく、厳しさもあるけれど評価が励みになるようで『目指せシズオカ』と言われるようになった。他国の大道芸イベントのスタッフも情報収集に来ているんですよ」

 --大道芸にゆかりもなかった静岡で、日本では敬遠されがちな大がかりなストリートパフォーマンスが始まり、発展したのはなぜ

 「静岡市は平成元年が市制100周年でしたが、青年会議所(JC)が開いていた『野外文化祭』を見た当時の市長が、では大道芸はどうか、と持ちかけたのが発端。地域おこしで行政支援が加わり、路上イベントの環境がうまく整ったんです。ただ、JCメンバーの縁で初回からスタッフだった私も当時の大道芸イメージは、南京玉すだれ程度だった。でもシンガポールやフランス、英国などを視察し、多様なパフォーマンスに感動した。みなさんも同じ驚きだったのでしょう、初回から来場者は予想を超える110万人で、今では国内外から例年150万人規模に増えました」

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