勇者の物語

南海の死んだふり 細切れ継投「筋書き通りや」 虎番疾風録番外編106

緒戦に勝ち、ベンチ前で喜ぶ南海ナイン=大阪球場
緒戦に勝ち、ベンチ前で喜ぶ南海ナイン=大阪球場

■勇者の物語(105)

昭和48年、初めての「2シーズン制」。前期は6月に3度の4連勝などで抜け出した南海が優勝。後期は8月21日の近鉄戦から14連勝した阪急が制した。

南海-阪急の「優勝決定戦」は10月19日、大阪球場で幕が上がった。下馬評は圧倒的に「阪急有利」。後期、両者の対戦成績は阪急の12勝0敗1分け。決定戦前にロッテの金田正一監督がこんな分析をしていた。

「ズバリ阪急の3勝1敗。この数字は両チームの総合力から考えて動かしがたい。ウチは9月の4連戦で阪急に1勝3敗と負けた。このとき改めて阪急の強さを知った。たたみ込んでくる攻撃力、力強いオーダー、まるで勝つことにしか興味を持たないような西本監督…。試合をしてて鳥肌が立った。南海が阪急に勝つには、持てる力以上のものを出し、緒戦に勝って勢いに乗ること。残念やが、後期の南海にはその力はない」

金田監督は見落としていた。そんな阪急も〝短期決戦〟になると意外にもろい-ということを。

◇第1戦 10月19日 大阪球場

阪急 110 000 000=2

南海 031 000 00×=4

【勝】佐藤1勝 【敗】米田1敗

【本】福本①(西岡)岡田①(西岡)

南海が西岡、阪急が米田の先発で始まった。阪急が福本と岡田の本塁打で先手を取ったが、二回に南海が敵失や代打相羽のタイムリーなどで逆転。このリードを鮮やかな投手リレーで守り切った。

先発の西岡が打たれると、三回から佐藤にスイッチ。さらに七回途中で福本に打順が回ると左腕の村上雅を、八回1死一塁で長池を迎えると江本を投入して逃げ切ったのだ。

打者に合わせて主力投手をぶつけて撃退する〝細切れ継投〟は、鶴岡一人監督時代から南海に伝わる日本シリーズ(短期決戦)用の特別作戦。野村克也監督も48年シーズンには一度も使ったことがなかった。

「短期決戦はピッチャーの継投が最大のポイント。筋書き通りや。阪急さんもびっくりしたやろなぁ」

これが後期、一度も阪急に勝てなかったチームの戦い? 当時のマスコミは『南海の死んだふり』とはやし立てた。(敬称略)

■勇者の物語(107)

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