三菱重工業が国産初の小型ジェット旅客機として開発を進めてきた「スペースジェット」(旧MRJ)をめぐり、開発事業の凍結が決まった。
開発が大幅に遅れたうえ、新型コロナウイルスの感染拡大に伴って納入先である航空会社の需要が当面は見込めないと判断したものだ。
「日の丸ジェット」として産業界の期待が高かった事業だけに、凍結は極めて残念だ。
商業飛行に必要な型式証明の取得を目指したが、設計変更を繰り返したことで納入期限を6回も延期してきた。「自前主義」にこだわった同社の開発体制に問題があったことは否めない。
航空機は部品などの裾野が幅広く、今後も有力な成長市場と見込まれている。凍結に至った要因を厳しく検証したうえで、国産機の開発・製造に向けた体制を再構築しなければならない。
三菱重工は、年600億円に圧縮していたスペースジェットの開発費について、今後3年で200億円に削減する。実機による飛行試験は見送り、証明取得に必要な文書づくりなどに限定する。これで開発作業はストップする。
同機の開発をめぐっては毎年1千億円以上が投入され、累計は1兆円規模にのぼる。だが、三菱重工は業績が悪化しており、国産ジェットの開発も大幅な縮小を余儀なくされた。やむを得ない経営判断だが、その影響を深刻に受け止めなくてはならない。
航空機は約100万個の部品で構成され、幅広い産業集積が必要となる。そうした航空機産業を育成するため、政府や自治体も開発事業を支援してきた。これまでの問題点などを検証したうえで、事業の継続に向けて新たな公的な支援も検討してほしい。
開発の再開には抜本的な見直しが不可欠である。同社は自社技術を過信するあまり、実績のある海外企業との連携が遅れた。開発費を軽減しつつ、早期の実用化につなげるため、他社との分業体制など柔軟な仕組みが必要だ。
わが国の航空関連産業は、米ボーイング社の中型機「787」に3割超の部品を供給するなど、サプライヤーとして一定の存在感をみせてきた。今回のスペースジェットの開発は、そうした航空関連産業を下請けから脱皮させる役割も担っている。その使命を忘れてはならない。