勇者の物語

好奇心強いV9戦士 ここまでやるか 虎番疾風録番外編103

昭和47年、選手兼任コーチで西本監督(右)を支えたスペンサー
昭和47年、選手兼任コーチで西本監督(右)を支えたスペンサー

■勇者の物語(102)

パ・リーグの球団はなぜ、V9巨人に勝てなかったのだろう。南海3敗、阪急5敗、ロッテ1敗。

当時は巨人・川上哲治監督が取り入れた〝ドジャース戦法〟(近代野球)に、パ・リーグの〝精神野球〟が敗れた-ともいわれた。50年近くたった今でも、その答えは見つかっていない。

「つい先日、フクさん(福本豊)ともその話をしたんやが結局、分からんかった。巨人を意識し過ぎたから。ここ一番で長嶋さんに打たれたから。巨人を怖いと思ってないのに、気ぃ付いたら4つ負けてた」と加藤秀司は首をひねった。

3敗した南海の野村克也が後年、おもしろい分析をしていた。

「巨人のV9戦士はみな、素直で頭が柔らかく好奇心が強かった。だから、集めた情報を完璧に消化できていた」

こんなことがあった。ある年のオールスター戦で中日の稲葉光雄投手が、打者へ投げる直前、首だけを一塁方向へ向ける投げ方で福本の盗塁を防いだ。すると、巨人の投手がこぞってその投げ方を真似し始めた-というのである。

巨人の「阪急対策」には<ここまでやるか…>と感心するようなことが多い。例えば『福本封じ』。一塁側フェンスに向け、わざと牽制(けんせい)悪送球を投げて、一塁走者の福本を二塁で刺すというマル秘作戦まで用意していた。(101話参照)

『怪物の口封じ』-というのもあった。昭和47年、阪急の〝怪物〟スペンサーはコーチ兼任で、三塁ベースコーチに立った。巨人には「スペンサーが投手のクセを見抜き、変化球か速球かを打者に教えている」という情報が入っていた。実際、投手が振りかぶったところで変化球のときには「イケ(長池)」「チャ(加藤)」と選手のニックネームを叫んで伝えていた。

いまさら投手のクセを直すわけにはいかない。そこで、ベンチにいる控え選手に1球ごとに「ワーッ!」と大声を出させ、スペンサーの声が打者に届かないようにさせた。これが「怪物の口封じ」である。当然、声が枯れる。マネジャーたちは大量ののど飴(あめ)を買い、控え選手たちに配っていた。

アホらし…と思うことでもV9ナインたちは面白がって取り組んだ。「そこの違いや」と野村はいう。(敬称略)

■勇者の物語(104)

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