話の肖像画

パティシエ 鎧塚俊彦(55)(10)左目を失い見えてきたもの

眼帯は妻の川島なお美さんが服に合わせてコーディネートしてくれることもあった
眼帯は妻の川島なお美さんが服に合わせてコーディネートしてくれることもあった

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《平成21年頃、何となく目の前がぼんやりとし始めた。その後病院で受けた診断は「網膜中心静脈閉塞(へいそく)症」。仕事を続けながら、手術や入院を繰り返した》

「あれ、見え方が何かぼーっとして、おかしいな」と。ある日、片目ずつつぶってみたら、なんだか左目の視界に斑点みたいなものが見えたんです。目の奥の静脈が詰まって、目の底に血が溜(た)まる病気でした。僕はもともと視力がよかったし、そんな大げさなことになるとは思っていなかったのと、忙しかったのもあって、精密検査を見送っていたら、数カ月後から急に見えづらくなっていきました。

朝から晩まで働いていたし、仕事柄、試食で甘いものをたくさん食べる毎日。原因として思い当たることはいくらでもありました。

その後は3度、手術しても治らなくて、「もう義眼にしないといけないかな」と思い始めたときに、かまぼこの老舗「鈴廣かまぼこ」(神奈川県小田原市)の鈴木智恵子会長が、「鎧(よろ)ちゃん、私の知っている先生のところに行って」と話してくれて、ありえないくらい名医だらけの「眼科医ドリームチーム」を紹介してくれました。おかげで眼球の手術は成功しましたが、それまで眼圧が高いままで目の神経が圧迫されてきたからか、光は戻ってきませんでした。今は左目がまったく見えないです。

《一時は引退も考えた》

片目の視力を失うと、思うようにケーキが作れないのです。細かい作業ができませんから。考えようによってはパティシエとして致命傷です。だから、引退は考えましたね、弟子がいなかったら辞めていました。まず遠近感がなくなるんです。例えば装飾の先端に金箔(きんぱく)をつけるとか、そういうピンポイントの作業が非常に難しいんです。片目で見ると、ものが平面的にしか見えないから、いろんな角度からケーキを見て作業する。今はだいぶ感覚が分かってきました。

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