勇者の物語

米田先発の意味 見ていたのは「第6戦」ではなく「来季」 虎番疾風録番外編102

後のない第5戦、先発したのはベテランの米田だった=西宮球場
後のない第5戦、先発したのはベテランの米田だった=西宮球場

■勇者の物語(101)

1勝3敗と後がなくなった第5戦、西本幸雄監督の「采配」には多くの疑問が残った。

雨で順延となった10月27日、西本監督は「恵みの雨や」と喜んだ。登板が続いていた山田や足立を休ませることができるからだ。当然、誰もが28日の第5戦の先発は「足立」と予想した。だが、マウンドに上がったのは35歳ベテランの米田哲也。このシリーズ初登板だった。

阪急は二回、大熊の左翼本塁打で先行すると、米田を下ろし三回からこのシリーズで好投している戸田にスイッチ。巨人打線はその戸田に襲い掛かった。

◇第5戦 10月28日 西宮球場

巨人 005 300 000=8

阪急 010 000 002=3

【勝】高橋一1勝 【敗】戸田1敗

【本】大熊①(高橋一)王①(戸田)長嶋②(戸田)黒江①(戸田)森①(戸田)長池③(高橋一)

1死後、王、長嶋が連続ホームラン。続く末次が四球で歩くと黒江が左翼へ2ラン。さらに森も右翼へ運び、1イニング4ホーマー。あっという間の5失点。

「一番まずい格好で負けてしもた。残念や。足立の手もあったけど、第6戦を考えて小刻みな継投策をとったんやが…」。負けたら終わる一戦に、第6戦を見据えて-とは西本監督らしからぬ発言だった。

実はこの日朝、巨人の宿舎「竹園旅館」でも「先発は誰か」が話題になった。ほとんどの選手が「足立」という中で牧野茂コーチだけが「米田」と予想し、ナインから失笑を買っていた。

牧野は朝、スポーツ紙に載っていた『西本監督、来季も続投』の記事を見て米田先発-と確信したという。

「戦局は1勝3敗。流れからいって、これから3連勝で逆転優勝するのは不可能に近い。となると、来季も〝先発組〟で予定している米田に花を持たせ、来季への励みにさせたい-と考えても不思議ではない」。西本監督が見ていたのは「第6戦」ではなく「来季」である-と牧野は分析した。

1勝3敗となった時点で西本監督は勝負を諦めたのだろうか。そういえば、46年の日本シリーズでも1勝3敗で迎えた第5戦の前に「辞任」を申し出ている。まだ、3つも戦えるのに…。巨人に勝てなかった理由が、そこにあるかもしれない。(敬称略)

■勇者の物語(103)

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