勇者の物語

情報分析力 「精神野球」からは抜け切れず 虎番疾風録番外編98

一回の2ランに続き四回にもソロ本塁打を放った末次=後楽園球場
一回の2ランに続き四回にもソロ本塁打を放った末次=後楽園球場

■勇者の物語(97)

この年の「日本シリーズ」が最後の戦いになるかもしれない。球界全体がザワザワと落ち着かない中、第1戦の幕が上がった。

試合は一回、住友が左翼へホームランを放ち先行。阪急ベンチは沸きあがった。だが「不調」といわれていた先発・山田が乱れた。

一回1死から高田の頭に死球。続く王の右中間二塁打で同点にされると2死後、末次に左翼へ運ばれて3失点。長池の左翼本塁打で同点となった四回には、またしても末次に左翼へ2打席連続のホームラン。

◇第1戦 10月21日 後楽園球場

阪急 100 200 000=3

巨人 300 101 00×=5

【勝】堀内1勝 【敗】山田1敗

【本】住友①(堀内)末次①②(山田)長池①(堀内)

「ヤマは向こう意気が強い。少々、調子が悪うても気力である程度、抑え込んでくれると思ってたんやが…」と西本監督は肩を落とした。だが、敗因は山田の「気力」の問題ではなかった。末次攻略のために集めたデータをどう分析し、どんな手を打ったのか。ベンチの作戦の問題だった。

実は前年(昭和46年)の日本シリーズで阪急は大量に巨人の情報を集めた。その中で長所、短所が分からない選手が1人出てきた。それが末次だった。

「ええやないか。そんなに大した選手やないやろ」と西本監督は気にもかけなかった。当時の西本はまだ「情報」を重視していなかったのだ。

「自分で見に行くのならともかく、人が見てきたものをそのまま信じるわけにはいかん。それは見てきた人を信用しないということではない。人間の目の正確度にも限界があるからや」

その末次が打ちまくった。第1戦の決勝打。第4戦には足立から満塁ホーマーを放つなど、19打数7安打7打点でMVPを獲得した。これを機に西本監督は考えを改め、スコアラーを増やすなど、情報収集に積極的になった。

だが、集めた情報を分析、生かすまでには至らない。それどころかシリーズ前にはこんな発言まで-。

「情報も大事やがそのために消極的になってはアカン。勝負は積極的でないと勝てん」。〝精神野球〟から抜け切れない。そこが巨人との「差」だった。(敬称略)

■勇者の物語(99)


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