美村里江のミゴコロ

両手いっぱいの幸せを探して

菊の花をよく飾る。ご存じの通り日持ちがいいこともあるが、もともと菊が大好きなのだ。

理由はいろいろあるが、まずあの香りがいい。花自体の芳香ではバラやユリにかなわないが、手折ったときの茎や葉から立ち上る力強い香りが大好きだ。

思えば小さい頃からシソやショウガ、ワサビなど薬味が好きだった。「お菓子を買ってあげる」という祖母の手を引いて薬局に入り、ナンテンなどが入ったのど飴(あめ)を買ってもらったこともある。普通のお菓子より高額だったわけだが、ふわふわ楽しい匂いのものより、地に足ついたどしっとした香りの飴を、毎日1つずつじっくりなめた。

1つずつ、といえば、秋の下校時に時々やった一人遊びがある。

それなりの田舎なので、空き地や道端に菊が咲いていることがある。その花をよく見て、1つだけ摘む。歩いた先で菊を見かけるたび、色、大きさを確認して、掌(てのひら)の中に同じものがなければ摘む。

人様の庭や畑には手を出さなかったが、手入れをしているおばさんに尋ねれば、「いいよいいよ、もっと持っていきな」と花束を作ってくれようとする優しい人も多かった。

それでも、「違うものがあったとき、1つだけ」もらって、両手いっぱいになったら帰宅する。

洗面器やバケツに水を張って、そこに花を放つと、摘みたての香りと、色と形を味わう水面の出来上がり。花びらの細いもの、ストローのようになっているもの、中心まで花びらでびっしりのもの、ほぼ球体のもの…。

好きな香りに浸りながら、いつまでも飽きることなく眺めた。そして、他の花だと翌朝にはダメになるのに、菊は水を替えれば2、3日は機嫌よく美しいままでいてくれる。

さて、そんな菊好きにとって良い季節になったが、時代的にも私の年齢的にもこの遊びはもう難しい。

そんな秋の「菊心」を満たすのは、画家、黒田清輝(せいき)の描く菊である。どの菊も整いすぎておらず、粗野かつ美しい。空き地や畑の隅で咲き誇っていた菊たちが、そのまま絵に収まっているような素晴らしさだ。

お気に入りの美術館所蔵作品もあるが、難しいときはインターネットの画像検索でも十分だ。あの秋の夕暮れと掌の菊が蘇り、私は液晶画面越しに深呼吸する。

みむら・りえ 昭和59年、埼玉県出身。女優としてドラマや映画に多数出演する一方、エッセイストとしても活動。平成30年に「ミムラ」から改名。著書に『たん・たんか・たん』(青土社)など。出演映画「空に住む」(青山真治監督)が公開中。