舞台を東京に移した第3戦、阪急が中1日の山田、巨人は関本が先発。阪急は二回、1死から森本が中前安打。続く大熊が右翼越えに二塁打を放って先制。この1点を山田が2安打無四球と完璧な投球で守る。山田は後年、当時の心境をこう語った。
「自分でも信じられないぐらい調子が良かった。長嶋さんや王さんでも関係なし。打たれるはずがない-という感覚で投げていた」
◇第3戦 10月15日 後楽園球場
阪急 010 000 000=1
巨人 000 000 003x=3
【勝】関本1勝 【敗】山田1敗
【本】王②(山田)
<痛恨の四球>九回1死で柴田。山田の投球リズムが、それまでのゆったりとしたものから微妙に早くなった。勝ちを急いだのか、柴田にこの試合初めての四球を与えた。
<疑問の間合い>続く柳田を右飛。2死一塁で長嶋。マウンドへ西本監督が向かい「間」を取った。
<不運の一打>長嶋への初球は外角へ流れるスライダー。凡打コースだ。長嶋は体を泳がせながら引っ張る。打球は遊撃・阪本の右を抜いて中前へ。
<魅入られた一球>2死一、三塁で王。マウンドの山田は体が重くなるのを感じたという。
「気持ちは負けていなかった。でも、腕が動かない。ズーンという重さ。鉛の重りを背負ったような感じだった」
そして1-1から投じた3球目、ストレートが真ん中へ。そのとき一塁を守っていた加藤は「なんでそこに投げるんや-と思ったよ。あれはオレにでも打てるタマやった」と振り返った。
打球は快音を残して右翼席へライナーで突き刺さった。逆転サヨナラ3ラン。山田はガックリとマウンドに膝をついた。ネット裏で評論家の山根俊英はこう指摘した。
「西本監督が出てきたとき不吉な予感がした。長嶋、王を迎えてオタオタするのははたで見ている方で、本人は案外ケロっとしているもの。しかし〝流れ〟を中断され、考える時間を与えられると、その恐怖心がわいてくる。万全を期したつもりが逆に災いとなった感じがする」
大きな大きな1敗となった。(敬称略)