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甘く大きく、皮ごと食べても皮が口に残りにくい。こんな付加価値の高いブドウを育成する果実袋の開発に、信州大学繊維学部(長野県上田市)の金翼水(キム・イクス)教授らの研究チームが成功した。新型コロナウイルス対策用マスクにも使われるナノファイバーフィルムを活用した袋だ。同教授は「ナノファイバーを農業に応用したのは世界初だ」と胸を張る。(原田成樹)
甘く、大きく
金教授らは髪の毛の約500分の1という極めて細いナノファイバーでできたフィルムの量産方法などを開発し、これまでに電子や医療などさまざまな産業分野で応用してきた。フィルムは空気を通すが、直径0・3マイクロメートルの粒子でさえ約99%カットできるというフィルター機能を持つ。新型コロナ対策のマスクでも利用されている。
研究チームは今夏、JA中野市(長野県中野市)と協力し、「シャインマスカット」「ナガノパープル」の2品種について、従来の紙の果実袋と、一部にナノファイバーフィルムを用いた新たな果実袋で生育を比較した。
栽培対象とした4000房のうち24房を選んで、糖度、重さなどを計測。その結果、糖度はナガノパープルで平均4・47%増、粒の重さ(大きさ)はシャインマスカットで同7・81%増、硬度はシャインマスカットで同13・9%増、病気発生率はナガノパープルで同13・96%減などとなった。
一般的に果物などは夏の昼と夜の寒暖差があるほど品質が良くなるとされる。果実袋にナノファイバーフィルムの窓があることで、夏でも外気に合わせて袋の中の温度が夜間にきちんと下がり、成長に良い状態が保てるため、実が硬く重く甘くなり、病気にもなりにくくなったと推察される。