昭和46年シーズン、阪急は強かった。4月終盤から5月前半に10連勝。さらに5月の終盤から6月にかけても15連勝し、球宴前には2位ロッテに8ゲーム差をつけた。
後半戦に入り8連敗し、一時はロッテにゲーム差なしまで迫られたものの、攻撃力で勝る阪急は再び点火。9月28日のロッテ25回戦に10-4で快勝、2年ぶり4度目のリーグ優勝を果たした。
ちょうど10年前の36年、追い出されるようにして退団した大毎オリオンズ。その本拠地だった東京球場で西本幸雄監督が何度も宙に舞った。
さぁ、日本シリーズ。巨人との4度目の対決である。下馬評では「阪急有利」といわれた。当時のサンケイスポーツに専属評論家、豊田泰光と吉田義男の対談が載っている。少し見てみよう。
豊田「ことしは阪急にとって絶好のチャンスだ。巨人は土井や黒江の力が落ちている。それに王が調子を落としている。それに比べると阪急は山田や加藤、福本と新しい戦力が出てきた。長池もさらに成長している」
吉田「これまではパのチームが巨人にどう挑むかという興味だった。それが戦力面では五分になったということですね」
豊田「巨人の怖さを知らない3人に期待したいね。第1戦が勝負。守ろうとするより最初から山田をぶつけるぐらいの積極性が必要だ」
吉田「阪急は山田を中心に回さないといけない。ボクも山田が4試合以上投げないと勝てないと思います」
この年、福本豊は67盗塁で2年連続の「盗塁王」。新3番に抜擢(ばってき)された加藤秀司は打率・321、25本塁打、92打点をマーク。山田久志は22勝6敗。防御率2・37で「最優秀防御率」を獲得。そして4番の長池徳二は打率・317、40本塁打、114打点で「最優秀選手(MVP)」に輝いた。
開幕を明日に控えた10月11日、西宮球場で西本監督は巨人・川上哲治監督と握手を交わした。
「いまさらこんなことを言ったら、ファンに叱られるかもしれんが、今まではぜひ、日本シリーズに勝たねば-という気持ちが薄かったようや。だが、今年は違う。これは自分だけやなく選手も同じ。ことしはもう〝受け身〟の形ではない」
それは西本監督の〝必勝宣言〟であった。(敬称略)