書評

『海神の島』池上永一著 胸に去来する沖縄秘史

 著者の山田風太郎賞受賞第1作である。これまでも沖縄を舞台にした数々の快作で知られる著者のこと、今回もそのご多分にもれず、物語は漣(れん)オバァが3人の孫、汀(なぎさ)、泉、澪を米軍基地内に墓参りに連れて行くところから始まる。この墓、先祖の墓ではなく、海神(わだつみ)のそれだと知らされ、3人は墓守を頼まれるが、これを拒否する。

 そこから物語は一気に飛んで、銀座のクラブのママになった汀=あだ名はエロ、水中考古学者の泉=同処女、転落の地下アイドル、澪=同ロリ=と3人が人生の転機を迎えたとき、オバァが重病となる。そして、曽祖父の石嶺賢治が見つけ、戦時中に紛失した海神の秘宝を発見した者に海神の墓がある基地の土地-年間の地代5億円-の相続を認めるという。かくして、ただでさえエネルギッシュでパワフルな3姉妹のお宝争奪戦の火ぶたが切られた。

 物語の舞台は、沖縄をはじめとして東京、九州全土、さらには台湾にまで広がり、お宝の隠し場所をめぐってストーリーは二転三転。おかしいのは、3姉妹のうち、一人がそれを捜し当てると、他の二人も何らかの方法で、同じ場所を特定、激しいバトルが展開する点である。

 沖縄生まれの著者は、基地や中国との問題など、リアルに扱えばかなり危なっかしいテーマを(もちろん、リアルに扱うだけの腹はくくれているはずだが)大胆な戯画化と正確な史観の相まった、一種、魔法的な小説世界の中で、類いまれなエンターテインメントとすることを可能たらしめている。

 そして泉が「永遠とはこういうことなのね」と嘆息したお宝の正体とは?

 私たちは、3姉妹と同じジェットコースターに乗せられ、作品を一気読みせざるを得ないのだが、読み終わって胸に去来するのは、この3姉妹とともにたどった、第二次大戦から今日に至る大小さまざまな沖縄秘史に他ならない。今日、歴史をこのようなかたちで提出できるのは池上永一ならでは、といっていいだろう。

 そして欲望に忠実であることの逆説的な美しさを体現した3姉妹が池上ワールドの作中人物に加わったことを、心から寿(ことほ)ぎたいと思う。(中央公論新社・1900円+税)

 評・縄田一男(文芸評論家)

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