子供の病気やけがつくり出す「代理ミュンヒハウゼン症候群」 専門家「多くの誤解」指摘「小児に関わる医療者が意識を」

子供の病気やけがつくり出す「代理ミュンヒハウゼン症候群」 専門家「多くの誤解」指摘「小児に関わる医療者が意識を」
子供の病気やけがつくり出す「代理ミュンヒハウゼン症候群」 専門家「多くの誤解」指摘「小児に関わる医療者が意識を」
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 児童虐待が社会問題となる中、子供の病気やけがを意図的につくり出して診察や治療を受けさせる「代理ミュンヒハウゼン症候群」に注目が集まっている。献身的に看病し、周囲の注目を集めようとする倒錯した心理が背景にあるとされるが、専門家は「この病態に関する適切な考え方は広がっておらず、多くの誤解がある」と指摘。「子供を守るため、医療に携わる者がこうした虐待の存在を普段から意識することが早期発見につながる」と強調する。(小林佳恵)

「よき母親」が…

 代理ミュンヒハウゼン症候群は、自分の体を傷つけて病気をつくり病院を渡り歩く精神疾患「ミュンヒハウゼン症候群」が元になっており、子供を自身の代理として行っていることからこう名付けられた。 

 一躍有名になったのは、平成22年、京都市内の病院などで子供3人の点滴に水道水などを混ぜて死傷させたとして母親が逮捕され、傷害致死罪などで懲役10年の実刑判決を受けた事件だ。

 被害者の治療を担当した医師の供述調書によると、母親はベッドサイドを清潔に整え、子供の身なりにも気を配る「よき母親」と周囲に映っていたという。起訴前の精神鑑定で代理ミュンヒハウゼン症候群と診断された母親は、公判で「医師らから特別な子供、特別な母親とみられて居心地よかった」などと述べた。

 最近でも、大阪市内の病院で生後2カ月の長男の口に血液を含ませ嘔吐(おうと)させたとして、母親が逮捕される事件が発生。大阪府警によると、母親は今年1月、「発熱がある」と長男と来院し、長男は入院。その後、約1カ月半の間に口から血を吐く症状が20回以上あったという。

 長男に吐血につながるような病気はなく、病院は「虐待の疑いがある」と府警に通報。府警は9月7日、新生児集中治療室で長男の口に血液を入れ嘔吐させたとして、傷害容疑で母親を逮捕した。

 府警は同28日、長男の口をふさいで一時呼吸を停止させたとして傷害容疑で再逮捕した。最初の逮捕容疑について、大阪地検は処分保留としており、捜査は今も続いている。

動機、単純でない

 「代理ミュンヒハウゼン症候群という名称を使うと奇妙さが際立ち、社会的な理解がかえって妨げられていると、欧米では反省期に入っている」と話すのは、子供の虐待に詳しい前橋赤十字病院(群馬県前橋市)小児科の溝口史剛医師だ。

 溝口医師によると、代理ミュンヒハウゼン症候群は親の精神疾患のように扱われているが、本来は子供への虐待の一類型。現在では関係機関がより客観的に取り扱うことができるよう、「医療乱用虐待(MCA)」という用語を用いることが提唱されている。必要があるのに医療を拒む「医療ネグレクト」とは逆に、不要であるにも関わらず医療を求める状況全般を指すという。

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