経済インサイド

インフラ点検ビジネス、国内で約5兆円 異業種参入の背景に規制緩和

 同様のサービスは富士フイルムも「ひびみっけ」の名称で提供。医療用画像診断システムで培った高精度の画像解析技術などを活用し、平成30年4月からサービスを始めている。リコーは今年9月から、明るさ不足でも広くピントが合わせられる「被写界深度拡大カメラ」を搭載した一般車両を使い、走行しながらトンネル内のコンクリート壁面の点検を行う「トンネルモニタリングサービス」の提供を開始した。シャープは堺市の本社ショールームに高画質の8K小型カメラを搭載したドローンを展示し、インフラ点検への活用をアピールしている。

 異業種参入の背景にあるのはインフラ点検での規制緩和だ。24年12月に9人が死亡、3人が重軽傷を負った中央自動車道笹子トンネル(山梨県)の天井板崩落事故をきっかけに、政府は翌25年に「インフラ長寿命化基本計画」を策定し、インフラ点検を強化。国土交通省の資料によると、国内のインフラメンテナンス市場は約5兆円と推定され、点検ビジネスの活性化が期待されたが、その一方で従来の人手による「近接目視」を原則としたため、広がりを欠いた。そこで国交省は昨年2月、橋やトンネルの「定期点検要領」を改定。近接目視の代替手段としてAIなどの新技術が活用できることを明記し、門戸を拡大した。

 電機・精密機器メーカーにとっても、高いシェアを誇ってきたカメラや複合機などの市場が成熟する中で、中長期にわたり一定の売り上げを見込むことができるインフラ点検は新規事業として魅力ある市場。課題は、新参者として地方自治体などインフラの管理者からの信頼をどう得るかだ。公共事業の性格上、利幅も大きくはないため、撤退するメーカーは少なくなく、キヤノンの穴吹主幹は「顧客は100年続くインフラを維持するという意識を持っているので、『われわれもそういう覚悟を持ってやっている』と伝えている」と説明する。

 ただ、世界に目を向けると、インフラメンテナンス市場は約200兆円にも上ると推定されている。国内で培ったデジタル技術を活用したインフラ点検のノウハウを海外でも展開できるのか。そのチャレンジはまだ始まったばかりだ。

(経済本部 桑原雄尚)