神奈川県座間市のアパートで平成29年、男女9人の切断遺体が見つかった事件で強盗強制性交殺人などの罪に問われた白石隆浩被告(29)の裁判員裁判の初公判。白石被告は起訴内容を認めたものの、残忍な犯行が明かされていく間も小さく伸びをするなど、緊張した様子は見られなかった。「楽して暮らしたい」。検察官が指摘した事件前の被告の心境も、社会を震撼(しんかん)させた事件の動機としては、拍子抜けするほど短絡的なものだった。
午後1時半。東京地裁立川支部で、上下緑色の作業着のような服を着た白石被告が姿を現した。背中まで伸びた黒髪は跳ねている。黒縁眼鏡に大きなマスクを付け、猫背気味の姿勢で裁判官の方を眺めていた。
「起訴状の通り、間違いありません」
裁判長に認否を尋ねられると、証言台の前で淡々と答えた白石被告。しかし検察官が殺害や遺棄の手口について起訴状を読み上げる間は、ゆっくりと首を左右に傾けたり、上半身を伸ばすように肩を後ろに動かしたりと、緊張感はうかがえなかった。
検察官の冒頭陳述によると、白石被告は女性を違法風俗店に派遣したとして、平成29年2月に職業安定法違反罪で起訴された。保釈後は、父親と暮らしながらアルバイトを始めたが、このころから「働かずに楽して暮らしたい」「自殺願望のある女性は言いなりにしやすい」などと考え始めたという。
その後、ツイッターで自殺願望があるかのような投稿を開始。「一緒に自殺しよう」などと声をかけ、最初の犠牲者となった神奈川県厚木市の女性=当時(21)=と知り合った。女性の金でアパートを契約したが、検察官はこの金の返済を逃れるために殺害したと指摘。「これなら働かないで性欲も満たされると考えた」と事件を繰り返した理由を挙げた。
出会った女性に対し、金を得られそうになければわいせつ行為に及んで殺害。徹底的な証拠隠滅のため自宅で遺体を切断したうえ、一部をごみに出し、大きな部位はクーラーボックスに隠したとも指摘した。