【ソウル=桜井紀雄】北朝鮮による黄海での韓国船員男性射殺事件で、韓国海洋警察は29日、男性が北朝鮮に対し亡命する意思を表明していたとする中間捜査結果を発表した。北朝鮮側は、男性の名前や年齢、出身地まで詳しく把握していたという。
北朝鮮は韓国への通知文で「男性は韓国の誰々とごまかすように言っただけで、何も答えなかった」と説明していた。男性の身元と亡命の意思を知りながら射殺した事実を隠蔽しようとした可能性がある。
韓国軍は北朝鮮側の交信を傍受していたとされる。海洋警察は、軍の情報と総合し、潮の流れでは南西に漂流するはずが、男性は「人為的」に北西に向かい、亡命を図ろうとしたとの分析結果を明らかにした。
男性はインターネット賭博などで約3億3千万ウォン(約3千万円)の借金を抱えていたという。
男性の兄は29日、ソウルで海外メディアを対象に記者会見し、亡命目的との当局の見方について「虚構だ」として反論した。
韓国の聯合ニュースは29日、韓国軍から報告を受けた国会議員らの話を基に、北朝鮮は22日の発見当初、男性を陸地に牽引(けんいん)しようとしていたと報じた。同日夜に「射殺しろ」との命令が北朝鮮の海軍司令部を通じて下され、現場の警備艇長が「射殺しろと? 本当ですか」と聞き返していたという。
北朝鮮の交信傍受から状況を再構成したとみられるが、国防省は「射殺」との表現はなかったと釈明した。