前回の米大統領選の出来事である。
2016年8月15日、民主党候補だったヒラリー・クリントン元国務長官の集会で、当時のバイデン副大統領が次のように演説し、共和党候補のトランプ氏(現大統領)を批判した。
「核保有国になり得ないとする日本国憲法を私たち(米国)が書いたことを彼(トランプ氏)は知らないのか」
日本や韓国の核武装をトランプ氏が容認しているとみられていた点をとらえ、安全保障を任せられないと指弾したのである。
バイデン氏のこの発言に会場は笑いに包まれた。すぐ隣にいたヒラリー氏は、にやにやして聞いていた。彼らにはトランプ憎しの思いしかなかったのかもしれないが、筆者はテレビのニュースでこの場面をみて「日本軽視」を感じ、なんとも嫌な気分になった。
確かに、日本国憲法の草案を用意したのは米国主導の連合国軍総司令部(GHQ)だった。GHQのスタッフが10日間弱で草案をつくり、日本に押し付けた。日本側による微修正はすべてGHQの承認が必要だった。
ちなみに、現憲法が日本の核保有を禁じたというのは事実誤認である。自衛の範囲であれば合憲だからだ。ただし、原子力基本法や核拡散防止条約(NPT)、非核三原則によって、日本は核保有しない方針を政策レベルでは定めている。
憲法を米国が書いたという指摘自体は事実と違わないが、それを米国の副大統領が公然と指摘したのは、独立国である現代日本への敬意や配慮に欠けている。
今回の大統領選で候補者となったバイデン氏は「トランプ氏は同盟国軽視」だと批判している。そうだとしてもバイデン氏が大統領になって、副大統領当時に軽んじた日本との間で、同盟をきちんと運営できるだろうか。
全体主義中国に対して、自由と民主主義、人権を重んじる日米などの先進民主主義諸国が団結しなくてはならない時代になったのに、いささか心配である。
米有権者の選択次第だが、バイデン大統領が生まれれば、トランプ氏続投の場合とはまた異なるかたちで、日本は対米関係や中国問題をめぐって苦労することになるだろう。