ツイッターで「闇バイト」に応募した男らが大阪府藤井寺市の民家に押し入り、現金などを奪った事件で、実行役の2人が「(約束した)報酬をもらえなかった」と供述していることが28日、捜査関係者への取材で分かった。このうち1人が犯行後、新たな犯罪の実行役を集める「リクルーター」をさせられていたことも判明。捜査幹部は「一度犯罪の誘いに乗ってしまうと、脅されるなどして抜けられなくなる」と指摘し、安易に加担しないよう警鐘を鳴らす。(桑波田仰太、小松大騎)
強盗を犯した弱み
捜査関係者によると、堺市西区の無職、宅見聖也(21)と神戸市垂水区のアルバイト、建部仁輪(とわ)(22)の両容疑者=強盗容疑などで逮捕=は今月上旬、それぞれツイッターで、犯罪の実行役を募る闇バイトに応募。その後、「赤坂」と名乗る男から通信アプリ「テレグラム」で強盗を指示され、100万円ほどの報酬を約束されたという。
2人は10日夕、防火設備の点検を装って藤井寺市の女性(85)宅に上がり込み、女性を縛って現金約20万円や通帳などを強奪。女性の口座から数百万円を引き出し、指示された別の口座に送金。その一部を名古屋市港区の会社員、樽本裕介容疑者(29)=同=が引き出したとされる。
しかし、宅見、建部両容疑者には犯行後、報酬はほとんど支払われなかった。そればかりか、建部容疑者は「赤坂」から別の犯罪の「実行役を1人集めろ」と指示され、ツイッターに募集のメッセージを投稿していたという。
2人は犯行前、身分証やキャッシュカードのデータなどを「赤坂」側に送信させられていた。「赤坂」の正体を知らないが、奪った金を持ち逃げしたり次の犯罪への加担を断ったりすれば、緊縛強盗を犯したことをばらされる恐れがあり、従わざるを得ない立場だった。
今回は現金の引き出し役だった樽本容疑者も「関東や名古屋で複数の強盗に関与した」と供述。もともとは強盗の実行役をさせられ、その後もほかの役割を指示されるようになった疑いがある。
死刑もあるリスク
「実行犯は検挙されるリスクが高いが、首謀者の犯罪組織からすれば、SNS(会員制交流サイト)で集めた若者が捕まっても『トカゲの尻尾切り』をできるメリットがある」。奈良女子大の岡本英生教授(犯罪心理学)はこう指摘する。
警察庁によると、今年1~8月に強盗事件で検挙されたのは1040人。このうち犯行時に14~29歳だったのは553人で、全体の半分以上を占める。
特に、19歳以下は227人で前年同期から5割以上増えており、若者が強盗事件に関与するケースが目立つ。要因として、SNSを通じて「闇バイト」「裏バイト」と称する犯罪の実行役に応募する若者が増えているとの見方がある。
SNSで実行役を募る手法は、特殊詐欺で現金を受け取る「受け子」などを集める際によく使われる。犯罪組織が特殊詐欺に加え、手荒な方法を使って手っ取り早く金を得ようとしている可能性がある。
ただ、詐欺罪も法定刑は10年以下の懲役と重いが、強盗は最低でも5年以上の懲役。被害者を死亡させた場合は死刑になることもある。捜査幹部は「犯罪の実行役を引き受けると抜けられなくなり、最後には使い捨てにされ、逮捕される。金欲しさに軽い気持ちで加担すると、取り返しのつかないことになる」と注意を呼びかけている。