世界の論点

菅政権誕生 米中関係に与える影響は?

 首相官邸で記者団との取材に応じる菅首相(右端)=9月17日午前
 首相官邸で記者団との取材に応じる菅首相(右端)=9月17日午前

日本を国際議論の中心的存在に押し上げた安倍晋三前首相の後継者となった菅義偉(すが・よしひで)首相の政策に各国メディアが注目している。特に経済、安全保障の両面で激しく対立する米中のメディアは、日本の動きが米中関係にも影響を与えることから、菅首相の政策方針を分析、予測する。米メディアは、安全保障問題への対処には「力強い経済」が必要だと指摘し菅政権の経済改革を期待。中国側は、日本が米国との連携深化でアジア太平洋地域での影響力が高まることを警戒している。

ポイント

・政治的不確実性の高い時期に就任した首相

・対中政策で新外交か防衛力強化かが注目点

・中国は米国が覇権拡大で日本を利用と主張

・日米豪連携で日本の力が高まることを警戒

米国 コロナ対処が基盤を左右

菅義偉首相に関し、米紙ウォールストリート・ジャーナル(17日付)は、新型コロナウイルス危機からの回復や米中の緊張激化への対応、来年の東京五輪の準備など懸案が山積する「これまでになく政治的な不確実性が高い時期」に就任したと指摘し、「新型コロナへの対処が長期政権を築けるかどうかの見通しを左右する」と論じた。

ワシントンの米政府関係者や専門家が注目するのは、菅首相がトランプ大統領との個人的な信頼関係の構築も含め、現在の強固な日米同盟をどう堅持していくのか、中国とどう付き合っていくのか、そして安倍晋三前首相が取り組んできた経済改革を引き続き前進させていくのかという点だ。

同紙の電子版は15日の社説で「日本は、北朝鮮などの旧来の脅威や、攻撃性を増す中国を含む新たな危険への対処に向け、力強い経済を必要としている」と指摘。安倍前首相は「日本の安全保障には強い経済が不可欠だと認識していた」とし、そうした考えから「世界の民主主義勢力との関係も深化させてきた」と評価した。

また、安倍前政権が掲げた「機動的な財政政策」「大胆な金融政策」「規制緩和を通じた成長戦略」という経済改革に向けた3本の矢のうち、「期待通りに放たれたのは最初の2本だけだった」と主張した。

その上で、菅首相は安倍前政権の官房長官としてこれらの政策の立案と実行で主導的役割を果たしたことから、今後も「地方銀行の統合」、「中小企業間の統合・合併の推進」といった国内経済の生産性向上に向けた改革の推進に期待を示した。

社説は同時に、「財務省が唱える『財政健全化』という名の増税に関し、菅氏は寛容であるようにみえる」との見方を示し、「消費税は引き上げられるたびに景気後退を誘発してきた。菅氏としては景気拡大に集中することが最良の財政計画となるだろう」と強調した。

一方、政策研究機関「戦略国際問題研究所」(CSIS)の日本専門家であるマイケル・グリーン、ニコラス・セイチェニー両氏は14日に発表した論考で、菅首相の対中政策に関し「日中関係の安定化に向けた新たな外交的方策を模索していくのか、一方で東シナ海での中国の威迫的行動を抑止するため防衛力を強化していくのかが注目される」と指摘した。

延期された習近平国家主席の国賓訪問が実現するかどうかも、菅首相が中国とどう付き合っていくかを見定める米国側の材料となりそうだ。(ワシントン 黒瀬悦成)

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