文芸時評

10月号 資本主義が生む「差別」 早稲田大学教授・石原千秋

黒人女性が警官に撃たれ死亡した事件を巡り、大陪審の判断に抗議する人々。資本主義が「差別」を生み出している=23日、ニューヨーク(AP)
黒人女性が警官に撃たれ死亡した事件を巡り、大陪審の判断に抗議する人々。資本主義が「差別」を生み出している=23日、ニューヨーク(AP)

とてもセンシティブなテーマについて書いておきたい。

「スカイツリーは日本で一番高い」と言ったとき、無意識のうちに東京タワーと比べている。この単純な事実から二つのことが導き出せる。一つは、「~は~である」という言説は何かと比べなければ意味を持たないこと。もう一つは、同じカテゴリーにあるもの--この場合はタワーと比べているということである。ふつうスカイツリーとキリンを比べたりはしない。何かを説明するときの基本である。しかし面倒なことに、これは差別を生む原理でもある。

中嶋洋平『ヨーロッパとはどこか』(吉田書店)は、「ヨーロッパ」とは「地理学的ヨーロッパ」と「政治的ヨーロッパ」と「文明のヨーロッパ」の3者が複雑に絡み合った錯綜(さくそう)態だが、いまは「文明のヨーロッパ」が基軸となった時代だと言う。それはどういうことだろうか。アジア研究が専門の岩崎育夫『世界史の図式』(講談社選書メチエ)は、「ヨーロッパ勢力が世界に広めたもの」として「近代国家の類型」「資本主義」「人種差別観」「新世界の民族構成の変容」という4つのポイントをあげている。これらは「文明のヨーロッパ」と言えそうだ。シルヴィア・フェデリーチ『キャリバンと魔女』(小田原琳・後藤あゆみ訳、以文社)は、近代への「移行期」などとソフトな言葉で呼ばれる時期に魔女狩り(男性も「魔女」とされた)があったが、それはペストの大流行による労働人口減に遠因があり、支配層に恐怖を覚えさせた貧しい女性労働者の連帯を立ち切ることにカトリックも手を染めて、プロテスタントによって分断されたヨーロッパ統合の最初の事例となったが、魔女狩りが終わったときには、女性は従順なイメージに変わっていたと言うのだ。排除が連帯を生み、資本主義は賃金を支払わない家事労働を手に入れた。

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