理研が語る/科学の中身

料理とDNA

【理研が語る/科学の中身】料理とDNA
【理研が語る/科学の中身】料理とDNA
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 「過程が大事」。この文言はプロフェッショナルな世界で「結果がすべて」としばしば対比されたりするが、ここでは「素材が大事」との対比で使いたい。何の話を展開しようとしているかといえば、料理である。

 3月下旬、世界的なコロナ禍の影響で突如、在宅勤務となった。私は、数理モデリング、データ解析、シミュレーションを武器に、細胞の中のDNAや染色体の形と動きの研究をしている。このため幸いにも在宅での研究活動を継続することが可能となっている。

 ただ、自宅で仕事をしているため、生活の中で占める「食」の比重が、それまでより、とても大きくなった。冷蔵庫にあるものや食べたいものと相談しながら、近所のスーパーへ買い出しに行くことにもすっかり慣れた。

 私の妻は野菜を育てることが趣味で、菜園からは旬の新鮮野菜を調達することもできる。現代はネットでさまざまなレシピを検索できるし、動画でその作り方をいつでも見ることができる。

 よって、食事作りは私の日課となった。同じ食材でも、切り方、火の通し方、調味料の違いで異なる一品となり、料理は作り方次第で無限の可能性があることを日々実感する。つまり、過程にこそ、それぞれの料理を輝かせる秘訣(ひけつ)があることを感じるわけだ。

 われわれヒトの生命としてのスタートは、両親から受け継いだDNAを格納した1つの受精卵からである。その全長2メートルのDNAが複製され、細胞分裂が繰り返される。同時に、細胞は分化することでさまざまな役割を獲得し、最終的には約260種37兆個の細胞からわれわれの身体は構成される。

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