勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(75)

絶妙采配 バレていたサイン逆手 してやったり

抱き合って喜ぶ殊勲の足立(16)とスペンサー(25)=後楽園球場
抱き合って喜ぶ殊勲の足立(16)とスペンサー(25)=後楽園球場

■勇者の物語(74)

ひとつ勝てばムードも変わる。第5戦もそんな試合となった。

前半は巨人のペース。国松の2打席連続ホームランで3-0とし、投げては先発の堀内が、五回までウインディの内野安打1本に抑える好投。

だが、阪急もこれまでの硬さはなかった。六回、1死満塁で阪本の遊ゴロの間に1点を返すと八回には、2死三塁に中前安打の石井晶を置いて、スペンサーが堀内の初球を左中間スタンドへ起死回生の同点2ラン。

◇第5戦 10月26日 後楽園球場

阪急 000 001 023=6

巨人 020 010 000=3

【勝】足立2勝1敗 【敗】堀内1勝1敗

【本】国松①(米田)②(佐々木)スペンサー②(堀内)

この一発で堀内のリズムが狂った。九回、先頭の森本が三遊間を抜くと早瀬、住友が連続四球。無死満塁のチャンスをつかんだ。岡村が三振に倒れ1死満塁で投手の足立。ここで一塁コーチスボックスにいた西本監督が動いた。足立を呼んで耳元でささやいた。

「ダチよ。ワシはスクイズのサインを出す。けど、お前は好きなタマがきたら打て。ええか、スクイズやないぞ」。実はこのとき、西本は阪急の出すサインがすべて巨人に見破られていることを知っていた。それを逆手に取ろうというわけだ。

西本はスクイズのサインを出した。すると案の定、堀内が2球続けてウエスト気味のボール。ここで、巨人ベンチも動く。堀内に代えて渡辺秀をリリーフに立てた。

西本はスクイズのサインを出し続けた。ボールカウントが2-3となってもサインはスクイズ。巨人の野手も前進守備。そして6球目、足立は強振した。打球は渡辺秀の足元を抜け、遊撃の黒江が横っ飛びで差し出したグラブの下を抜けて中前へ。決勝の2点タイムリーだ。

九回の巨人の攻撃を3人で抑えた足立が、スペンサーと抱き合ってベンチに戻ってくる。

「足立にスクイズ? 一応、考えた。けど、堀内はバントの処理がうまいし、スクイズのサインは巨人にバレとった。だから…。足立はよう打ったで」

3連敗から2連勝。絶妙の采配に西本監督、してやったり!(敬称略)

■勇者の物語(76)