都市部、中山間部両にらみ 西鉄などAIデマンドバス運行 福岡

都市部、中山間部両にらみ 西鉄などAIデマンドバス運行 福岡
都市部、中山間部両にらみ 西鉄などAIデマンドバス運行 福岡
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 西日本鉄道と三菱商事の合弁会社、ネクスト・モビリティが人工知能(AI)を活用し、乗客の現在位置と目的地、道路状況などをもとに最適な乗降場所を判断する「デマンドバス運行システム」の外販に向けた商談を進めている。デマンドバスは過疎地などでの既存の交通手段の補完や置き換えに期待が集まる。西鉄は人口構成や地域事情などの条件が異なる福岡市内の2カ所で運行中。特に壱岐南校区(同市西区)は高齢化率が高く、中山間地域にも近い環境のため、西鉄は効率的で利便性の良い運行ノウハウを蓄積し、全国展開を目指す。(中村雅和)

 6月中旬、壱岐南校区内の公民館で、同月1日から運行を始めたデマンドバス「のるーと」の説明会が開かれた。西鉄社員は集まった地域住民に対して1対1で、配車や乗降車方法について説明した。

 「のるーと」は、路線バスのような決まった運行ルートがない。代わりに、AIが他の配車希望や乗客の目的地などをもとに効率的なルートを算定するのが特徴だ。バスやタクシーとの最大の違いは、乗客がスマートフォンの専用アプリで乗車を希望することで利用できるということだ。

 同校区に先行して平成31年4月に運行を始めた福岡市東区のアイランドシティは、地区内の人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は10%以下。それに対して壱岐南校区は、高齢化率が36・9%(令和2年3月末時点)で、市内でも有数の高さだ。このため「のるーと」の運行に欠かせないスマホの操作に不安を覚える可能性が高い高齢者への対応が普及の鍵を握る。校区内の公民館で、きめ細かく説明会を開いたことには、そんな背景があった。

 壱岐南校区は、東部に市営地下鉄七隈線の終着駅である橋本駅や商業施設などが集中し、西側には緩やかな丘陵地に団地や住宅地が広がる。高齢化が進行する中、東西間の交通アクセスの確保が地域の大きな課題だった。

 平成23年以降、西鉄の「橋本駅循環バス」や、グループ会社の福岡西鉄タクシーによる「ミニバス」が運行されていたが、「運行形態が一方向で、本数も少ないなど通院や買い物時の利便性が高いとは言えなかった」(地域住民)という事情もあり、利用が伸び悩んでいた。

 そんな中、この地域では需要に応じて柔軟に運行するデマンドバスへの期待は高い。説明会に参加した70代の女性は「操作は直感的で、思っていたほど難しくない。日々の足として長く運行を続けてもらえるよう、しっかり利用していきたい」と語った。

 西鉄も「のるーと」に期待している。車両定員が10人以下のため、普通二種免許での運転が可能で、通常のバスと比べ乗務員採用のハードルが下がるからだ。深刻な運転士不足の中、公共交通を維持していく一助になる。また、将来的には人口減少で需要の落ち込みが予想される郊外路線の維持策にもなり得る。

 現在、全国の自治体や他の交通事業者にシステムを売り込みを進める中で、都市部に近いアイランドシティと、中山間地域に近い壱岐南校区という2地区で蓄積した運行ノウハウは、大きな武器になりうる。ネクスト・モビリティにはすでに、全国から問い合わせが相次ぎ商談が進んでいるという。

 保有台数や路線数などから「日本一のバス会社」と呼ばれる西鉄が、国内のバス路線維持のモデルケースとなり、西鉄発のデマンドバスが全国に広がることにもなりそうだ。

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