舞台が東京・後楽園球場に変わった。球場全体を約4万人の巨人ファンが埋め尽くしている。
第2戦が終わったとき、青田ヘッドコーチがこう言って唇をかんだ。
「シリーズの3、4日前に巨人のデータを詰め込み過ぎた。だから選手が頭の中で考えすぎて、整理消化ができてない。それにシリーズの雰囲気にのまれてコチコチになっとる」
第3戦、阪急は梶本、巨人は城之内の先発で始まった。
◇第3戦 10月24日 後楽園球場
阪急 000 000 100=1
巨人 200 121 00×=6
【勝】城之内1勝 【敗】梶本1敗
【本】森①(大石)王①(米田)
いきなり梶本が後楽園の〝落とし穴〟にはまった。
当時から、セ・リーグの選手の間では「後楽園球場での試合は巨人寄りの判定が多い。われわれは10人の敵と戦わなくてはいけない」と言われていた。
一回、2死走者なしで王を打席に迎えた。ボールカウント2-3からきわどいコースに決まった。マウンドの梶本もストライクと確信していたのかマウンドを降りかける。だが、球審の判定は「ボール」。これで梶本はリズムを崩した。続く長嶋にも四球を与えて一、二塁。そして高倉に左翼越えに二塁打されて2点を献上したのである。
まさか…の3連敗。ネット裏で「観戦記」の執筆を務めた南海の野村克也はこう分析した。
「両チームの打線の調子は大差がない。それでいて阪急が3連敗を喫したのは、9人がバラバラで攻撃を仕掛けているからだ。1点がほしいときには5番打者でも、正確なバントをして走者を送っている巨人とは大違いだ」
そして、踏ん張りきれない投手陣についても苦言を呈した。
「わたしは巨人の打者の〝偉大さ〟はボールを打たないことにあると思う。阪急もこれまで3度、巨人と戦った。もう、その偉大さに気づいてもよいのに、まだ分かっていない。〝ボールを打たせて取る投球〟は巨人に通じないのだ」
大毎時代の4連敗とあわせて日本シリーズ7連敗。「追い込まれてしもうたのう」。西本監督は言葉を絞りだした。(敬称略)