水深450メートルにも及ぶ深海に潜る特殊技能を持つ「飽和潜水員」としての任務に、30年以上にわたり携わってきた。高い水圧に耐えるため、機械でヘリウムガスを体内に取り込み、加圧空間で何十時間も過ごすこともあるという過酷な職務だが、「海自の飽和潜水の発展に、微力ながら貢献できてうれしい」と屈託のない笑顔を見せる。
活動拠点は、横須賀基地に所属する潜水艦救難艦「ちよだ」。潜水艦が浮上できないなどの事故時の対応を想定して設けられている部隊だが、幸い、出動を迫られるような事故は入隊後、一度もなかった。海上での航空機などのトラブルや地震・津波などの災害時に、救助に駆けつけることが主な任務だ。
入隊は10代後半。まもなく先輩隊員の飽和潜水員の仕事を目にし、「自衛隊にこんな職種があるなんて」と強い衝撃を受けた。重さ数十キロにも及ぶ頑丈な装置を全身にまとい、深海に潜っていく姿に憧れ、「自分がやるべき職務はこれだ」と意志を固めた。
平成7年に豊後水道で起きたヘリ墜落事故では、後日受け取った遺族からの手紙に心を打たれた。「主人を冷たい海から帰してもらって…」と感謝の気持ちがつづられており、人に貢献できる仕事だと、改めて実感した。
現在は後進の育成に力を注ぐ。「志は高くても、なかなか到達することのできない職種。自分が積んできたスキルを全て伝える」と意気込んでいる。(外崎晃彦、写真も)=随時掲載