「近所の人も言っていたが、今まで経験したことのない暴風だった」。千葉県南房総市で明治32年から続く老舗旅館「魚拓荘鈴木屋」の4代目社長、鈴木健史さん(59)は昨年9月9日未明に本県に上陸した台風15号(令和元年房総半島台風)の猛威をこう振り返る。近隣では約1年がたった今でも、屋根にブルーシートがかかった家が残る。「親族を頼って引っ越した家や、直すのをあきらめた家もある」と明かす。
当日は台風に備え、旅館に泊まり込んでいた。強風で間もなく調理場の窓ガラスが割れたほか、屋根のトタンが吹き飛んだ。「建物の中も、雨が滝のようになって水浸し。全く対処できなかった」という。
強い風が収まり、朝になると被害の全容が明らかになった。すぐに応急の修理や修繕工事をお願いしようと近隣の業者に片っ端から電話をするも全くつながらない。やっとつながった業者には「今すぐには対応できない」と断られた。途方に暮れ、旅館のフェイスブックで助けを求めたところ、県外の業者がブルーシートをかけに来てくれた。
客室16室のうちの5室と宴会場2つが水浸しで使えなくなったが、残った部屋や無事だった別の宴会場を使って営業を再開した。「同じような台風が再び来ても耐えられるようにちゃんと直そう」と決めたが、再建の道のりは苦難の連続だった。
約1カ月後の10月12日に、台風19号(令和元年東日本台風)の接近に伴う強風でブルーシートが飛び、残っていた屋根のトタンにも被害が出た。さらに同25日の台風21号による大雨で激しい雨漏りに見舞われた。銀行の融資を受け、改修工事が始まったのは12月に入ってのことだ。
それでも同月には宴会場を使った忘年会の予約が入り始め、今年1月には新年会などで需要が増加。2月には客足も戻り、売上高も前年を上回った。しかし、「このままうまくいけると思った」矢先、新型コロナウイルスの感染拡大が再び経営を直撃した。