主張

三権分立を否定 香港の制度破壊を許すな

 三権分立とは、単一機関の暴走を抑止する近代民主主義の基本原理だ。香港の林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官が1日の記者会見で「香港に三権分立はない」と明確に否定した。

 香港の学校教科書から三権分立に関する記述が削除されたことを指摘されての発言だ。

 中国の習近平指導部は「香港国家安全維持法」を施行し、1997年の返還後も香港に保障した民主制度を、なし崩し的に破壊してきた。三権分立の否定もその延長線上にあり、決して容認することはできない。

 香港では従来、学校で三権分立の原則を教えてきた。84年12月に中国と英国が調印した共同声明は香港が「行政管理権、立法権、独立した司法権と終審権を有する」と明示している。

 だが、林鄭氏は「行政、立法、司法の3機関は互いに協力はするが、最終的には行政長官を通じて中国政府に責任を負う」と説明した。習政権はかねて三権分立を認めず「法治は党の指導下にある」と強調してきた。

 香港においても、法の上に共産党が位置することになる。特別行政区として2047年までの50年間、保障されていた中国の社会主義体制とは異なる香港の「一国二制度」の完全否定である。

 中英が批准公文を交換し、さらに国連に登録されて発効した「中英共同声明」を顧みない、重大な国際公約違反でもある。

 中国外務省は15年の段階で、英国に対して根拠も示さぬまま「共同声明はすでに無効」とまで言い放っている。そんな国をどう信用すればいいのか。習政権と香港行政長官は、国際社会に厳しく非難されるべきである。

 トランプ米大統領は「中国は香港に約束した一国二制度を、一国一制度に置き換えた」と非難し、林鄭氏を含む高官や中国共産党幹部11人を制裁対象とするなど、対中圧力を強めてきた。

 だが日本は、政府が「重大な懸念を有している」などと従来と変わらぬコメントを述べるばかりで具体的な制裁措置を取るまでには至っていない。

 安倍晋三首相の後任選出という状況下で、香港問題はそっちのけの感さえある。ポスト安倍政権は発足後、直ちに香港の自由を回復する強硬な対中政策を打ち出し、アジアの民主主義リーダー国として存在感を示してほしい。

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