被害者帰国、果たせぬまま 複数ルート駆け引きも 

安倍晋三首相と握手をかわす(右から)横田滋さん、早紀江さん夫妻、有本明弘さん=平成27年4月26日、東京都千代田区の日比谷公会堂(大西正純撮影)
安倍晋三首相と握手をかわす(右から)横田滋さん、早紀江さん夫妻、有本明弘さん=平成27年4月26日、東京都千代田区の日比谷公会堂(大西正純撮影)

 安倍晋三首相は戦後の歴代首相の中で、恐らく最も北朝鮮の体質や行動に精通している。昭和63年に北朝鮮にいることを知った有本恵子さん(60)=拉致当時(23)=の両親が、父の晋太郎氏の事務所を訪ねた際、対応したのが安倍氏だった。北朝鮮と対峙(たいじ)する姿勢は、それ以来だ。

 平成25年10月、安倍氏は拉致問題について国会で、「圧力に重点を置いた、対話と圧力の姿勢でしか解決しない」と断言。翌年から国際社会の圧力包囲網形成を本格化させた。

 29年に米国にトランプ政権が誕生すると首脳間の信頼関係を軸に、拉致問題について両政府で入念な情報共有を進め、昨年、ベトナム・ハノイでの米朝首脳会談ではトランプ氏が拉致について、「顕著な進展がない」と北朝鮮の金正恩委員長を追及。対米交渉を維持したい限り、金氏は拉致問題を避けられなくなったことは事実である。

 安倍氏はまた、外務省のほか複数ルートで北朝鮮側のサインを察知するチャンスをうかがってきたとされる。政府職員らの海外での情報収集、接触は活発といえたが、安倍氏が述べた通り政治は「結果」である。拉致被害者が救えていないという事実は極めて重い。

 ただ、政権発足当時から拉致問題を「政権の最重要課題」と位置付けてきた安倍氏ですら解決できない拉致を、どう解決するか。28日の会見で拉致問題を解決できず「痛恨の極み」と述べた安倍氏の辞任に拉致被害者の家族からは、不安や心配、落胆がみられた。重い課題が先送りされたことへの失望は大きい。

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