勇者の物語

反論許さぬ 西本監督を説得せよ 虎番疾風録番外編57

西本監督へ絶大な信頼を寄せた阪急の小林米三オーナー
西本監督へ絶大な信頼を寄せた阪急の小林米三オーナー

■勇者の物語(56)

青田昇を新監督とする「再建案」を持って、小林米三オーナーを訪ねた岡野祐球団社長にとって、オーナーの反応は予想外のものだった。

信任投票の経緯や西本監督との話し合いの様子を聞いた米三は、再建案の説明が出る前に、こう指示を出した。

「わたしは阪急の監督は西本君以外に考えていません。わたしの気持ちは変わらない。事情がどうであれ、西本君の説得に努めなさい。たとえ1カ月かかっても説得しなさい」

それは反論を許さぬ至上命令だった。

10月18日、岡野社長は仲介人としてオーナーの内意を受けた木地元晴相談役を立て、再び西本説得を開始した。オーナーの気持ちを知った西本も「これほどまでに私を…と感激している。いまは何が何でもやめる-という気持ちはない。じっくり話し合いたい」と会談に臨んだ。

焦点は、人事権について現場の話も聞いてほしい。会社-現場を1本の意思でつなげ、協力態勢を整えてほしいという西本監督の要求を、岡野社長がのめるか否かにかかっていた。

岡野はすべて了解した。というより、オーナーの西本への絶大な信頼を目の当たりにすれば、そうするより道はなかった。

10月19日、西本監督の「留任」が正式に発表された。その席で西本は改めて謝罪した。

「私のとった方法が非常にまずかった。こんな騒動を起こしてしまい、ファンや選手に申し訳ない」

その様子を小林オーナーは笑顔で見守った。

「信任投票などをやれば、われわれでもある程度、不信任票が出る。だからといって社長をやめてしまえば、社員はどうなりますか。11票の不信任票など問題ではない。雨降って地固まる-です」

米三の西本への絶大な信頼はどこからきているのだろう。こんな逸話がある。

最下位で終わった1年目のオフのこと。米三は西本を誘って大阪・キタ新地のあるバーを訪ねた。すると、そこに南海の鶴岡一人監督がいた。

米三は半ば冗談のつもりで「鶴岡さん、来年はもう少し負けてくださいよ」と声をかけた。すると西本が「オーナー、ばかなことは言わんでください!」と本気で怒りだした。そのとき米三は「この男なら」と確信した-という。

オーナーの厚い信頼を背に新生・西本阪急は再スタートを切ったのである。(敬称略)

■勇者の物語(58)

会員限定記事会員サービス詳細