聞きたい。

『MaaS戦記 伊豆に未来の街を創る』「最先端」をいく泥臭いドラマ 森田創さん 

【聞きたい。】『MaaS戦記 伊豆に未来の街を創る』「最先端」をいく泥臭いドラマ 森田創さん 
【聞きたい。】『MaaS戦記 伊豆に未来の街を創る』「最先端」をいく泥臭いドラマ 森田創さん 
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 東急MaaS担当課長の森田創さんだが、2年前まで「MaaS(マース)」の言葉すら聞いたことがなかったという。初めて耳にしたのは野本弘文社長(現会長)から「MaaSをやれ」の辞令を受けた瞬間だった。

 MaaSとは、「Mobility as a Service」(サービスとしての移動)の略語。スマートフォンなどITを活用し、目的地までの最適な交通手段を組み合わせ、予約や決済まで一括して行う概念のことだ。スマホのデジタルパスをかざせば、鉄道から観光施設までアクセスできるヨーロッパ発の最先端事業を、森田さんは任されたのだ。

 「でも僕自身がIT音痴。しかも新規事業なのに部下は最初、不思議ちゃんのような個性の強い3人だけ。衝撃人事でした」

 本書は、そんなゼロから出発したチームが、静岡・伊豆を舞台に、日本初の観光型MaaSの実証実験に取り組む、悪戦苦闘を記したノンフィクションだ。

 最先端のITを駆使する事業がテーマだが、仕事の実態は泥臭い。地元交通事業者の協力をすんなりとは得られず、丁々発止の交渉が続く。伊豆観光の中心地である下田で、市民向けMaaS説明会を開いても、会場はガラガラ…。

 先駆者ならではの試行錯誤は、NHKの人気番組だった「プロジェクトX」を思わせる展開。過去をひもとく同番組は毎回、ハッピーエンドだったが、MaaSの挑戦は今も続く。

 「地方創生に取り組む人の参考になるよう、プロセスと失敗も書くことが、この本の存在意義。着地点がみえないなか、執筆を許してくれた会社に感謝しています」

 今はコロナ禍も加わり、観光業そのものが難しくなったが、森田さんは10年後を見据え、前を向く。「地元の人と新しい未来を切り開き続ける。そのメッセージも込めました」。最先端とアナログが同居する人間ドラマ。伊豆に行きたくなった。(講談社・1700円+税)

 飯塚友子

【プロフィル】森田創

 もりた・そう 昭和49年、神奈川県出身。東京大卒業後、東京急行電鉄入社。現在、交通インフラ事業部MaaS担当課長。著書に「洲崎球場のポール際 プロ野球の『聖地』に輝いた一瞬の光」など。

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