楽曲をパートごとに分解する「音源分離技術」はクリエイターの夢か、著作権の悪夢か

この分野で最もよく知られたミュージシャンのひとりであるホリー・ハーンダンもそうだ。彼女は19年のアルバム『PROTO』を制作するためにAIプログラム「Spawn」を構築した機械学習実践の支持者であり、批評家でもある。

Musixmatchが自社の音源分離アルゴリズムをトレーニングするためにバンドを雇ったように、ハーンダンもAIプログラム「Spawn」のトレーニングにボーカルアンサンブルを雇い、ライナーノーツには丁寧にそのときのメンバーの名前をクレジット表記している。

ハーンダンにとってトレーニングにかかわったメンバー全員をクレジットすることは、透明かつ人道的な手法でAIを利用するために欠かせない手順だ。「これは魔法のようなエイリアン・インテリジェンスではありません」と、ハーンダンは言う。「人間が訓練したものなのです」

ミュージシャン仲間であるグライムスとゾラ・ジーザスとのTwitterでのやりとりにおいてハーンダンは、AIソフトで生成された作品が最終的に人間の作品を完全に駆逐してしまう、という考えを否定した。むしろハーンダンは、「ロボットやナローAI[編註:特定の分野に特化した学習に適したAI]といったカルチャーをわたしたちに受け入れさせようとしている企業」について慎重な姿勢を示している。

そういった企業とは、機械学習ツールを使ってリコメンド用アルゴリズムの精度を上げている会社のことであると、ハーンダンは取材に答えている。アーティストは企業のアルゴリズムに影響されて、アルゴリズムが選んだプレイリストに掲載される音楽をつくろうとしかねないからだという。

「音楽配信プラットフォームがカルチャーにおいて独裁的な立場を有することになります」と、ハーンダンは言う。「そんなことになれば、貧弱な文化的プロダクトが生まれることでしょう」

個人の利用をはるかに超えた問題

音源分離技術が、個々のミュージシャンや好奇心のあるリスナーにとって有用なツールであることは疑いの余地がない。しかし、一つひとつの音符を正確に奏でるための練習用にギターソロを分離する、といった個人が利用する範囲をはるかに超えた問題が提起されている。

機械学習テクノロジーが発展し、ストリーミングサービスをはじめとした音楽企業がこの技術の活用法に長けていくと、Spleeterといったソフトウェアで並び替えられ、名前をつけられたリコメンド用アルゴリズムがつけた優先順位は、これまで以上に楽曲の成否において果たす役割が大きくなっていくことだろう。

アルゴリズムが人間のようにメロディーを書いたり、リズムをつくったりすることは決してない。だが、アルゴリズムは音楽を聴く能力を向上させているだけでなく、音楽をメタデータに変換する能力も向上させている。もちろんサービス向上のためだ。

会員限定記事会員サービス詳細