楽曲をパートごとに分解する「音源分離技術」はクリエイターの夢か、著作権の悪夢か

一方で、メリットをまったく享受できなかったとしたら話は別だ。著作権法は、こうした問題に直接対処していない。「著作権法はテクノロジーの進歩に対して後れをとっています」と、ザカリンは言う。「いま可能になっていることは、わずか10年ほど前に連邦議会が予期したことと必ずしも一致するわけではありません」

これはSpleeterのようなテクノロジーが抱えるパラドックスだ。その技術を利用する個人と開発した会社の双方にとって有用性は否定できないが、契約書で明示的に許可されない限り、多くのケースで著作権法に違反する可能性がある。

「Spleeterはサービスの向上に貢献し、音楽ファンに新たな機能を提供できます」と、エローは言う。「一方で、著作権保有者とも緊密に協力を続けて、そのコンテンツを合法かつ適切な方法で使えるようにしなくてはなりません」

訓練データ作成のためバンドを雇う企業も

Spleeterをはじめとする機械学習アルゴリズムは、既存の膨大なデータセットを使って情報の特定と分類のためのトレーニングをする。

エローが以前ニュースサイト「The Verge」に語ったところによると、彼らはアカペラトラックとそのインストゥルメンタル版を含む何万もの楽曲をSpleeterに入力したという。例えば、ブルース・スプリングスティーンの声とギターの違いを教えるためだ。

だが、DeezerがSpleeterの発表時に注意喚起した通り、大半の音楽作品は著作権によって保護されている。このため音源分離アルゴリズムを訓練すること、ましてや分離したステムを使うことは、著作権法上で問題になりかねないという。

こうした問題を抱えている企業はDeezerだけではない。フェイスブックのAI部門はDeezerによるSpleeter発表の数週間後に、自社の音楽用音源分離プラットフォームを発表している。

「世界最大の歌詞カタログ」を自称する「Musixmatchは、アマゾンやグーグル、Apple Music、Instagramなどにデータを貸し出す一方で、音源分離に関する研究論文も発表している。同社が自動化を進めている歌詞の文字起こしに使える可能性があるからだ。

「現在は人の手で歌詞をテキスト化していますが、近いうちに自動化できるようになるでしょう」と、Musixmatchの最高経営責任者(CEO)のマックス・チオチョーラは言う。

Musixmatchは自社の音源分離ソフトウェアをトレーニングするために、わざわざバンドを雇って新たにレコーディングまでしたという。こうして分離したボーカルトラックとインストゥルメントトラックを、トレーニングデータとして利用できるようにした。

リコメンド用アルゴリズムの危うさ

テック企業がプラットフォームの最適化を検討する一方で、クリエイターたちは機械学習が未来の音楽のサウンドにどのような影響を及ぼすかに関心を寄せている。

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