勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(52)

確執の発端 バント采配にオーナー激怒

10年ぶりのリーグ優勝を果たし、胴上げされる大毎・西本監督
10年ぶりのリーグ優勝を果たし、胴上げされる大毎・西本監督

■勇者の物語(51)

昭和35年、大毎の監督に就任した西本幸雄は「ウチが勝てないのは闘志不足。相手を倒すには各人が血みどろの努力をする以外にはない」とチームのぬるま湯ムードを一掃した。こんな〝逸話〟が残っている。

5月26日、南海戦(大阪球場)の試合前、榎本喜八の振ったバットが柳田利夫の頭を直撃する事故が起こった。

騒然となるグラウンドに、呆然(ぼうぜん)と立ち尽くす榎本。すると西本監督がその榎本の横っ面を「しっかりせい。これから戦いやぞ!」と張り飛ばしたのである。大毎ナインはわれに返った。

6月に入って18連勝した大毎は一気に抜け出し、2位南海に4ゲーム差をつけて10年ぶりのリーグ優勝。そして、セ・リーグの覇者、三原脩監督率いる大洋との日本シリーズに臨んだ。

確執の発端となる〝采配〟は第2戦、2-3と1点を追いかける大毎、八回表の攻撃で起きた。

◇第2戦 10月12日、川崎球場

大毎 000 002 000=2

大洋 000 002 10×=3

【勝】島田源1勝 【敗】小野1敗

【本】榎本(1)(島田源)

この回、先頭の坂本がバントヒットで出塁。続く田宮が四球で歩くと西本監督は、六回に先制の2点本塁打を放っている3番・榎本に「送りバント」を命じ、1死二、三塁とした。ここで大洋は2番手権藤に代えて秋山を投入。4番の山内を敬遠し1死満塁で5番・谷本との勝負に出た。

2球目、谷本はスクイズを敢行。打球は捕手前に転がり、ボールをとった土井が走者にタッチし一塁に転送。大毎のチャンスは一瞬で消えた。

この西本采配に疑問をもった永田雅一オーナーは電話で西本を問いただした。

「あの場でバントはないだろう。周りにいた評論家たちも皆そう言っている」。これに西本は「チームの事情を一番知っているのは評論家ではなく監督のわたしです。無責任な評論家の言葉にのって、非難されては心外です」と反論。そして永田オーナーの口から「バカヤロー」の言葉が飛び出した。

結局、大洋に4連敗。永田オーナーの怒りは頂点に達した。これが解任の理由とされている。だが、あの采配だけが原因ではなかった。実はその裏に〝もう一つの理由〟があったのである。(敬称略)

■勇者の物語(53)