新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が延長され、肩透かしを食らった格好の国民や事業者の失望はピークに達し、社会や経済も疲弊していた。
全国各地でクラスター(感染者集団)の発生が不安を広げる中、大阪府は12日、イベント会場などで感染者が出た場合、メールで注意喚起する「コロナ追跡システム」を導入すると発表。夏の大型イベントが続々中止され、NHKは大河ドラマ「麒麟(きりん)がくる」の一時放送休止を決めた。
経済への打撃は大手企業にも拡大し、アパレルの名門レナウンが15日、民事再生手続きの開始を発表し経営破綻に追い込まれた。
感染者の比較的少ない地域を中心に経済活動の再開が模索される中、政府は14日、「特定警戒都道府県」の茨城、石川、岐阜、愛知、福岡の5県を含む39県を対象に、31日の期限を待たずに緊急事態宣言を解除した。
一時200人を超えていた東京都の新規感染者数はこのころ1桁台で推移。埼玉、千葉両県も似た傾向にあったが、神奈川県では2桁の日もあった。県境を越えた人々の移動を警戒する声も根強く、政府は慎重に見極めを続けた。
自粛延長疲れ、社会を覆う
大型連休明けの緊急事態宣言解除を心待ちにしていた国民の期待は裏切られ、引き続き強いられた自粛生活への疲れと新型コロナウイルスへの不安が社会を覆っていた。
興行中止が続いていた大相撲で、三段目力士の勝武士が13日に死去。プロスポーツ界では新型コロナ感染症による初の死者で、まだ28歳という若さもアスリートらに衝撃を与えた。
11日には7月のプロ野球オールスターゲームの中止が決定。「球宴」のない初めての夏となった。15日には国内最大の野外音楽祭典「ロック・イン・ジャパン・フェスティバル」(8月)の中止が発表された。
大勢の登山客でにぎわう日本のシンボル、富士山も、18日に静岡県が登山道封鎖などを発表。今夏は開山しないことが決まった。
やり場のない国民の怒りは政権にも容赦なく向かい、政府は18日、検察官の定年を延長する検察庁法改正案についてSNSなどでの抗議の高まりを受け通常国会での成立を断念した。
5月11日 上海ディズニーランド再開
一方、感染がピークを越えた欧州では、フランスで2カ月近く続いた都市封鎖(ロックダウン)が11日に緩和された。イタリアは18日、外出原則禁止措置を解除した。中国の上海ディズニーランドは11日、約3カ月半ぶりに世界に先駆けて営業を再開した。
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は11日、「生命と生活を保護するためにゆっくりと着実に(外出制限を)解除していくことが重要だ」と述べた。拙速な経済活動の再開は感染の「第2波」を招く恐れがあるからだ。
現に感染は着実に新興国など世界各地に広がりを見せていた。ブラジル政府は16日、感染者数が世界4位のスペインを上回ったと発表。インドは同日、感染者数が中国を抜き、翌日に全土封鎖措置を5月末まで延長することを決めた。
5月15日 レナウンが民事再生手続き開始
コロナ禍での景気悪化は、中小零細企業だけでなく、ついに名門企業の経営破綻も招く。高級紳士服「ダーバン」などを展開し、かつてはアパレル業界ナンバーワンの売り上げを誇ったレナウンが15日、民事再生手続きを開始したと発表。コロナ禍の上場企業破綻第1号となった。
ソフトバンクグループが18日に発表した今年3月期連結決算は9615億円の最終赤字に転落。孫正義会長兼社長は「1929年の世界恐慌と同様に世界に大きな影響を与える」と、コロナ禍の深刻さを語った。
感染拡大を封じ込めるため緊急事態宣言を延長した政府だが、副作用としての経済の疲弊も看過できない段階にきていた。安倍晋三首相は14日、令和2年度第2次補正予算案の編成を指示した。
緊急事態宣言が39県で解除された14日、全館休業や食品売り場のみの営業だった百貸店では「コロナ後」へ向けた動きを見せた。買い物客は検温を受けて入店。レジでは透明のシート越しにマスク姿の店員が腕を伸ばして客に紙袋を手渡した。各地の繁華街ではこのころ、マスクを着けて外出する人たちがみられた。「新たな日常」の風景が徐々に浸透し始めていた。
首都圏や近畿圏での緊急事態宣言の全面解除に向け、政府は感染状況の見極めを続けながら、「出口戦略」へとかじを切る。
(11)2020年5月19日~ 「やっと」緊急事態宣言を全面解除