「演劇」そろり再開も毎日が千秋楽 業界特有の難しさ、中止リスク負担重く - 産経ニュース

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「演劇」そろり再開も毎日が千秋楽 業界特有の難しさ、中止リスク負担重く

帝国劇場=東京都千代田区(福島範和撮影)
帝国劇場=東京都千代田区(福島範和撮影)

 新型コロナウイルスの感染拡大により、延期や中止が続いていた演劇などの公演が再開されている。ところが、ようやく動き出した舞台も出演者やスタッフから感染者が確認され、再び中止や休止に追い込まれる事態が相次いでいる。大人数が関わり、気密性のある会場に長時間観客を集める「演劇」は、そもそも3密(密閉、密集、密接)になりやすい環境だ。業界特有の困難さに、解決の決定打は見えてこない。

 東京都千代田区丸の内の帝国劇場で7月23日、観客を入れた公演が148日ぶりに再開した。本来は同月18日に再開予定だったが、劇場スタッフの新型コロナウイルス感染が明らかになり、予定されていた公演を無観客の「配信」に切り替えた。

 主催者の東宝によると、前後左右を空ける「千鳥配列」で1897席の座席は半分以下になった。予定されていた2幕約3時間のミュージカル「ジャージー・ボーイズ」を、1幕約2時間のコンサート版に変更。オーケストラと俳優の間に透明の仕切り板を入れ、俳優同士も離れてステージに立つなど工夫した。

 演出の藤田俊太郎さんは俳優らに「毎日が千秋楽だと思って」と伝えた。「明日、舞台がなくなってしまうかもしれないが、リスクを背負いながらも進むしかない。身体的距離は離れても、精神的な距離は近づいた」と覚悟を決めて公演を続けたという。

 稽古期間中には、東京・新宿の「シアターモリエール」で俳優や観客ら100人以上が新型コロナに感染する「劇場クラスター」が発生。横浜市で7月14日に始まった劇団四季のミュージカルでは稽古に参加していた俳優の感染が分かり、公演を一時中止した。

 また、同月21日には舞台稽古中だった俳優、横浜流星さんの感染が分かり、8月の東京公演とその後の地方公演が中止に。7月29日には新国立劇場で働くスタッフの感染により、バレエ公演が2日間、中止された。

 こうした急な休止には、金銭的な負担ものしかかる。関係者によると、多くの公演の料金は、客席の8割が埋まれば採算が取れるよう設定される。しかし、現状では販売できる客席数は半分以下。劇場に足を運べないファンのため配信を行う公演もあるが、視聴料金は劇場チケットの半額程度で、配信のための人件費などがかかることも考えれば、それだけで穴埋めするのは難しい。

 収益につながるグッズも混雑を恐れ販売しない公演が多い。幕あいのトイレ渋滞を避けるため1幕ものにしたり、上演時間を短くしたりと作品の変更を余儀なくされる例もある。

 そもそも再開の見通しが立たない劇団もある。

 約20席の自前の劇場を持つある劇団スタッフは「もともと小劇場は3密が売りなので、それができないなら全部やめてしまった方が楽だ」と自嘲気味に話す。

 稽古中のある俳優は「自分だけでなく現場に入るマネジャーも、稽古前から定期的に感染を調べる検査を受けている」と明かした。だが、そこまでしても感染を完全に防ぐことは不可能だ。

 感染症と危機管理の問題に詳しい日本大学危機管理学部の福田充教授は「スタッフらに感染者が出るたびに公演中止にしていてよいのか」と疑問を呈する。

 例えば日本相撲協会は、協会員から感染者が出ても必ずしも場所を中止しないという考えを表明した。長引く流行の中で文化芸術を継続するには「主催者だけでなく、観客もどこまでリスクを受容できるかを考えていかないといけない。絶対に感染しないというゼロリスクはあり得ず、感染者を出さないではなく、広げない対策を重視すべきだ」と指摘している。(文化部 道丸摩耶)