勇者の物語

トレード交渉 即答避けた阪急 虎番疾風録番外編47

東京・赤坂の料亭で行われた会談。左は巨人の正力オーナー、右は阪急の岡野球団社長
東京・赤坂の料亭で行われた会談。左は巨人の正力オーナー、右は阪急の岡野球団社長

■勇者の物語(46)

注目の会談は1月13日、正午から東京・赤坂弁慶橋の料亭「清水」で行われた。巨人からは正力亨オーナーと水野谷茂二総務。阪急は岡野祐球団社長が会談に臨んだ。

本来なら極秘で行われるトレード交渉。だが、今回は50人近い報道陣が料亭の周辺で成り行きを待った。大方の予想は、巨人の米田獲得の申し出に対し、阪急が断固拒否。それでこの騒動も一件落着-と思われた。

ところが、事態は思わぬ展開をみせた。1時間40分の会談の後、記者団に囲まれた岡野社長は「初の会合で回答してけりをつけるのは失礼」と即答を避けたというのである。そしてこう語った。

「米田は阪急の大黒柱だから、難しい問題だ。巨人の王や長嶋を欲しいというのと同じだ。だから正力さんには〝回答を焦るのはやめましょう〟と伝えた。米田を出せるかどうかを決めるのは時間がかかるでしょう」

記者たちは色めき立った。断固拒否と思いきや、一転、出せるかどうかを再考する-というのだから、騒然となるのも当然だった。そんな記者たちに正力オーナーは不敵な笑みをうかべた。

「お互いにもうしばらく考えてみようということになった。米田の見返りに誰を出す-という交換要員の提示まで話はすすまなかったがね」

このとき、米田は27歳。200勝へあと16勝に迫り、その驚異的なスタミナから「ガソリンタンク」「人間機関車」と呼ばれていた。長嶋や王とまではいかなくとも、2人に匹敵する選手との交換トレードが考えられた。

「米田を出すならオレもやめる」と言っていた西本監督も「球団がやるトレードについて監督が最後の断を下せるものではない。米田を絶対に出したくないというのではなく、トレードする場合、戦力が低下しては困る。巨人には優秀な選手がたくさんいるが、今の段階では何も言えない」と微妙な言い回しに変わった。すべての発言が「米田放出」に向いたのである。(敬称略)

■勇者の物語(48)

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