日本の未来を考える

供給網を見直す動き 学習院大教授・伊藤元重

中国南西部の四川省遂寧市にある工場で手術用マスクを梱包する様子=2月7日(Chinatopix・AP)
中国南西部の四川省遂寧市にある工場で手術用マスクを梱包する様子=2月7日(Chinatopix・AP)

新型コロナウイルスの感染拡大で世界の貿易が混乱する中でサプライチェーン(供給網)のあり方に注目が集まっている。マスクや医療機器が不足しているのに、中国への依存度があまりにも高くて、日本に入ってこない。自動車や建築現場でも入ってこない部材があるので工場や現場が稼働できない。企業レベルだけではない。政府のレベルでも、安全保障に関わる問題として、サプライチェーンのあるべき姿が論議されている。

情報通信分野でのファーウェイをめぐる米中の確執はその典型である。米中以外の国の企業にとっても、この問題は大きなリスク要因である。韓国で大騒ぎになった日本からの半導体材料の輸出管理もサプライチェーンに関わる問題である。今や、サプライチェーンの管理は、安全保障から、個別企業のリスク管理まで、幅広いレベルで大きな課題となっている。グローバル経済の展開を考える上でも重要なテーマとなるだろう。

グローバルサプライチェーンの問題は中国抜きに語ることはできない。中国が世界貿易機関(WTO)に加盟した2001年には中国のGDPは日本の3分の1程度だった。リーマン・ショックの翌年の09年には日本とほぼ並び、19年には日本の約3倍となっている。急速に経済規模が拡大する中で、世界のあらゆる財のサプライチェーンの中での中国の存在感は大きくなっている。特にリーマン・ショック以降は中国の経済成長と連動して、世界的な国境を越えた分業が深化・拡大している。部品や素材が様々(さまざま)な国で生産され、その多くが中国で最終製品に組み立てられている。グローバル化の進化とはこうした国境を越えた複雑な分業の展開であり、多くの財のサプライチェーンは中国抜きに成立しなくなってきた。

そのサプライチェーンの見直しの動きが、国レベルでも、企業レベルでも行われようとしている。ファーウェイの事例からも分かるように米国は先端分野において中国とのサプライチェーンを分断しようとしている。中国側もファーウェイのための半導体製造を国内にシフトさせようとしているように、サプライチェーンを米国の影響から切り離そうとしている。一旦進んだ流れを切り離すことは容易ではないが、コロナ危機で、サプライチェーンの見直しの動きが広がる可能性がある。

過去の政治経済の流れの中で大きな転機となったのが、ベルリンの壁の崩壊である。それから約30年、新興国も含めた世界の貿易と投資の流れは加速化しサプライチェーンも進化してきた。米中貿易摩擦の激化、世界各国での保護主義的な勢力の台頭などはコロナ危機前から顕著になっていたが、今回の危機でさらに加速化する様相を呈している。冷戦終結から30年で、安全保障の問題は大きく変容している。その中心に中国の存在があることを考えると、経済の流れが無縁であるとは考えにくい。グローバル経済の流れの変化を見る上で、サプライチェーンの見直しの動きがどう展開するのか、重要な注目点となる。(いとう もとしげ)