【ワシントン=黒瀬悦成】トランプ米政権は核軍縮問題に関し、オバマ前政権が唱えた「核兵器なき世界」の理想論を退け、核兵器の近代化などを通じて抑止力を確保しつつ、米国とロシアに中国を加えた3大核保有国による核軍縮・軍備管理の枠組み構築を目指す。当面の焦点は、来年2月5日に期限切れを迎える米露の新戦略兵器削減条約(新START)の延長交渉の行方だ。
ポンペオ国務長官は5日の記者会見で「トランプ大統領にとって最大の優先事項の一つは、核兵器が実際に使用され、世界が最悪の日を迎えないようにすることだ」と述べ、米政権が核軍縮と核戦争リスクの低減に重要課題として取り組んでいると説明した。
同時に、米政権が強調するのは「条約とは双方が順守してこそ成立する」との論理だ。
トランプ政権は米国と旧ソ連が1987年に締結した中距離核戦力(INF)全廃条約に関し、ロシアが条約違反となる地上発射型巡航ミサイルの配備に踏み切ったとして、2019年2月に条約の破棄を正式に通告。条約は6カ月後に失効した。
INF条約の破棄をめぐっては「米露の軍拡競争につながる」との批判が広がった。しかし、相手が守っていない条約を一方的に履行したとしても、核戦力バランスが崩れ、むしろ地域情勢を不安定化させるというのが米政権の考えだ。
同じ論理の延長線上にあるのが、中国を米露の核軍縮の枠組みに参加させることを目指す取り組みだ。
米露が新STARTの延長で合意しても、インド太平洋地域での覇権確立に向け、核戦力を増強させている中国が枠組みの外に置かれるのであれば、核リスクの低減は困難だ。
ポンペオ氏は「核拡散の危険を減らすためにも、米露中がより堅固で安定的な戦略環境を構築することが極めて重要だ」と訴える。