自衛隊の馬毛島基地(鹿児島県)整備は、中国や北朝鮮の脅威が増すアジア太平洋地域において、米軍の軍事的影響力を維持する上でも重要だ。ただ、計画案公表に至るまで日本政府の対応は紆余(うよ)曲折をたどった。空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)を行いたい米側に早期の滑走路整備を求められた一方、地権者との用地買収交渉は難航した。
米軍横須賀基地(神奈川県)を拠点とする原子力空母「ロナルド・レーガン」などの空母打撃群は、米軍のアジアへの前方展開の中核戦力。空母の艦載機(戦闘機など)は甲板に着艦する高度な技量が求められ、FCLPは欠かせない。
恒常的なFCLP施設の整備は長年の日米の懸案だった。旧民主党政権下の平成23年、日米両政府が馬毛島を選定。だが、防衛省が土地価格を約45億円と鑑定したのに対し、馬毛島の大部分を所有する東京都の開発会社は、これまでの島への投資などを理由に数百億円規模を要求し、交渉は難航した。最終的に国土交通省出身の和泉洋人首相補佐官が交渉を仕切り、昨年11月、160億円での売買契約がまとまった。防衛省幹部は「着実に計画を進めたい」と語る。
近年、中国の潜水艦や空母を含む艦艇、戦闘機が頻繁に南西諸島周辺に進出している。その南西諸島の北端の馬毛島に拠点が新設される利点は自衛隊にとっても小さくない。
防衛省は馬毛島基地で、離島防衛に関連する自衛隊の訓練を想定。空自が導入する最新鋭ステルス戦闘機F35Bが海上自衛隊の護衛艦「いずも」の甲板に発着する状況の模擬▽陸上自衛隊の水陸両用車や輸送機オスプレイによる島への上陸▽上空の航空機からの陸自隊員の空挺(くうてい)降下-といった訓練を検討している。(田中一世)