教科書採択 育鵬社から切り替え相次ぐ 専門家「リーダーシップ持った教育委員、首長不在」懸念

 全国で進む来年度から使用される中学校の教科書の採択をめぐり、歴史と公民の教科書を育鵬(いくほう)社から他社版に切り替えるケースが相次いでいる。4日には全国最大の採択区である横浜市が他社版に切り替えることを決定。日本の歴史に対する愛情などを育むことを目的とした育鵬社版をめぐっては教員の一部から反発もあり、専門家は「リーダーシップを持った教育委員や首長の不在で、学校現場の意向に左右されやすい状況になっているのでは」と懸念する。

 今年の採択では来年度から4年間使う教科書を決める。これまで育鵬社版の歴史・公民を使ってきた自治体で既に状況が明らかになっている主なケースを見ると、栃木県大田原市が継続使用を決めた一方、横浜市のほか、東京都の都立中高一貫校▽神奈川県藤沢市▽大阪府河内長野市(公民のみ)▽同府四條畷市-などが他社版に切り替えた。

 横浜市は平成21年、自虐史観を排することを目的とする「新しい歴史教科書をつくる会」が主導した自由社版を市内18区中8区で採択。その後、つくる会から分かれた「日本教育再生機構」のメンバーらが執筆した育鵬社版を公民とともに全市一括で、23、27、令和元年のいずれの採択でも選び続けてきた。理由としては平成28年度まで計14年間にわたり、教育委員や委員長を務めた元委員の存在も大きかったとされる。

 今回の採択は教育長と教育委員5人の計6人による投票で実施。同市教委によると、鯉渕(こいぶち)信也教育長は採択後の会見で、育鵬社版不採択の理由として、新学習指導要領への移行にともない評価の観点が新しくなったことに加え、教育委員のメンバーが変わったことによる影響にも触れた。

 埼玉県教育委員長を務めた経験がある麗澤大の高橋史朗特任教授は「教育長をはじめ教委事務局には、内容が偏っていたとしても現場の教師の意見重視という考えが基本にある。これまで横浜などでは委員側が、そうした考えを抑えてリードしてきたが、交代により勢力が変わった」と指摘。

 文部科学省によると、採択のシステムは各自治体で定める。しかし、調査員として選ばれた教員が各教科書の長所や短所などを調査した内容を基に、校長や学識経験者らでつくる委員会などで答申をまとめ、それをベースに教育委員が可否を議論するというケースがほとんどだ。

 高橋氏は「答申などに対して説得力のある反論ができる委員がいなくなれば、より現場の意向に流されやすくなる。首長らがリーダーシップを持って見識のある委員を加えるよう努める必要がある」と語った。

 育鵬社 歴史・公民の教科書を発行してきた扶桑社の事業を継承し、平成19年に設立。日本の歴史に対する愛情や、国民としての自覚を育てる観点に立った編集が特徴。文部科学省によると、全国の中学校で現在使用されている同社の教科書シェア(冊数)は歴史が6・4%、公民が5・8%となっている。