勇者の物語

引き抜き合戦 セ・パ憎悪むき出しの争い 虎番疾風録番外編40

阪神のダイナマイト打線(左から長谷川、後藤、玉置、土井垣、藤村、別当、金田、呉)。うち4人が引き抜かれた
阪神のダイナマイト打線(左から長谷川、後藤、玉置、土井垣、藤村、別当、金田、呉)。うち4人が引き抜かれた

■勇者の物語(39)

2リーグ制への移行は「分裂」それとも「分立」なのか。阪急の50年史には「分立」と記されている。当時、連盟会長を務めていた鈴木龍二も「代表者会議で8球団の意見が一致し、正しく2リーグ制が敷かれたのだから、分立とするのが正しい表現だ」と明言していた。

だが、阪神の思いは違う。球団史「昭和のあゆみ」にはこう書かれている。

『目には目を、歯には歯をといった憎悪むき出しの争いを繰り広げた現実と「正しく2リーグ制が敷かれた」とする見解に著しい矛盾を感じる。少なくとも当時は分立などという穏やかな表現で済ますことのできるような雰囲気ではなかった』

袂(たもと)を分かった8球団はそれぞれリーグを結成した。巨人、中日、阪神、大陽(松竹ロビンスに改名)4球団に新たに「広島カープ」「国鉄スワローズ」「大洋ホエールズ」「西日本パイレーツ」が加わりセントラル・リーグを。そして阪急、南海、東急、大映側には「毎日オリオンズ」「西鉄クリッパース」「近鉄パールス」が加入。7球団によるパシフィック・リーグを結成した。

両リーグは苛烈な選手の引き抜き合戦を展開した。特に「裏切り者」とされたタイガースへの毎日オリオンズの引き抜きは凄(すさ)まじかった。

分裂前の昭和24年11月8日、大陽戦でのタイガースのスタメン表がある。

(1)(中)呉昌征(2)(左)金田正泰(3)(右)別当薫(4)(三)藤村富美男(5)(捕)土井垣武(6)(二)本堂保次(7)(一)大館勲(8)(遊)長谷川善三(9)(投)若林忠志。「ダイナマイト打線」である。

このうち金田と藤村を除く7選手を毎日(6人)と西鉄(長谷川)に引き抜かれたのだから、阪神が「憎悪むき出しの…」と怒るのも理解できる。

阪急も「毎日の加入に手を貸した」という理由で狙われた。レギュラーの平井正明内野手をはじめ9選手をセ・リーグ(大洋3、西日本3、広島3)に引き抜かれた。特に捕手の日比野武と永利勇吉を西日本に取られたことで、捕手が1人もいなくなるという異常事態を招いたのである。補強は間に合わず、25年の開幕戦では内野手の明石武がマスクをかぶった。

これほどまでの仕打ちを受けながらも「分立」と表した阪急。<ほんまにプライドの高い球団>である。(敬称略)

■勇者の物語(41)

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