コロナ その時、

(6)休業要請 国と東京都の攻防 2020年4月9日~

【コロナ その時、】(6)休業要請 国と東京都の攻防 2020年4月9日~
【コロナ その時、】(6)休業要請 国と東京都の攻防 2020年4月9日~
その他の写真を見る (1/2枚)

新型コロナウイルスの封じ込めへ緊急事態宣言が東京、大阪など7都府県で発令されたが、感染拡大は勢いを増していた。2日後の9日に東京は感染者が新たに181人確認され、そのうち122人は感染経路が不明。大阪も92人と最多の感染者数を記録した。

東京都は宣言前から、休業要請について百貨店や理髪店などを盛り込んだ対応案を策定していた。だが、国は慎重で宣言当日に改定した基本的対処方針では「国と協議の上、外出自粛の効果を見極めた上で行う」とし、百貨店、理美容は事業継続を求める業種に挙げていた。

東京都の小池百合子知事が「(私が)社長だと思っていたら天の声がいろいろ聞こえてきて、中間管理職になったようだった」と述べるほど、休業要請の線引きをめぐる国との交渉は難航した。都がやっと休業要請対象を公表したのは宣言発令から3日後だった。

感染者は10日に世界で150万人を超え、国内も5000人以上に達した。愛知、岐阜、三重の3県は10日、独自の緊急事態宣言を発令。感染拡大を抑えながら経済や国民生活をどう維持するのか。混乱の中で、緊急事態宣言は全国に拡大する流れとなっていった。

4月9日 小池知事と西村担当相が会談、決裂回避

ついに緊急事態宣言に踏み切った政府だが、直後に難題が待ち構えていた。理髪店や居酒屋をめぐって休業要請したい東京都と衝突する。「人命最優先」を掲げる自治体と、今後は経済的ダメージを抑えたい国の思惑がすれ違った。

都庁内で「国と物別れでも改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき休業要請する」との強硬案も浮上したが、小池百合子都知事と西村康稔経済再生担当相が9日夜に会談、決裂は回避された。西村氏は翌日の会見で「時間をかけ突っ込んだ議論をした」と話し、都の独走を食い止めた安堵(あんど)感をにじませた。

だが、この騒動で都のコールセンターには「うちは休業要請対象か」といった問い合わせが殺到。国と都との駆け引きで事業者や国民が振り回された。都は休業要請に協力する中小事業者に最大100万円支給する制度を導入したが、財政が厳しい他県ではなかなか思うにまかせず、自治体間で対応はばらついた。

4月13日 米の死者2万人超、世界最多に

感染拡大抑制を図りながら、どう経済活動を維持するのか。ワクチンや治療薬もない中、新型コロナは人類史上最大級の経済的打撃を与える脅威との認識が広がっていた。「(1930年代の)世界恐慌以来、最悪の景気低迷に陥ると想定している」。国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は9日の講演で、2020年の世界経済について警鐘を鳴らした。

日本銀行は9日に公表した地域経済報告(さくらリポート)で、全9地域の景気判断を引き下げた。リーマン・ショック翌年の平成21(2009)年1月以来、11年3カ月ぶりのことだ。ファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は9日、「新型コロナ問題は戦後最大の人類の危機だ」とまで表現した。

海外では、流行の中心地が欧州から南北米大陸へと移っていった。死者がブラジルで10日に1000人を超え、米国は13日に2万人を超えてイタリアを上回り世界最多になった。ニューヨークでの「医療崩壊」の様子が、あすの日本の姿として報じられた。

在宅勤務・テレワークへ一気にシフト

緊急事態宣言後、初の週末となった11日、大都市の繁華街は静まり返った。東京・銀座の目抜き通りに面した店はほぼ休業。「こんなに人がいないのは初めて。別の街になってしまった」との声が漏れた。大阪・梅田でも商業施設の多くが営業自粛し、百貨店前では休業の張り紙を呆然(ぼうぜん)と眺める人の姿が見られた。

安倍晋三首相は同日、7都府県の事業者に出勤者を最低7割減らすよう要請した。これも機に大都市に拠点のある企業は通勤を制限し、在宅勤務やテレワークへシフト。国民は新たな日常と働き方に直面し、閉塞(へいそく)感が広がっていく。

12日、SNSに投稿された1本の動画が瞬く間に炎上した。シンガー・ソングライターの星野源さんのギター弾き語り映像に合わせ、首相がソファで犬を抱くなどリラックスした様子が映し出されていた。外出自粛への協力を求める目的だったが、ストレスを募らせる国民からは「貴族か」などと批判が殺到。ある政府高官は「全く聞いていなかった。批判を浴びるのは明らかなのに…」と悔やむ。

かつて「安倍1強」と呼ばれた政権だったが、新型コロナ対応をめぐり迷走が始まったかのようだった。

(5)2020年4月1日~ 発令された緊急事態宣言

(7)2020年4月14日~ 10万円給付めぐり政府迷走

連載一覧へ


会員限定記事会員サービス詳細