日曜に書く

論説委員・中本哲也 カーボンリサイクルの島

故郷はいつまでも変わらないでいてほしい。

郷里を離れて暮らす者の身勝手な願望である。

長島大橋

瀬戸内海のほぼ中央に浮かぶ大崎上島(広島県豊田郡大崎上島町)が筆者の郷里である。

昭和62年3月、大崎上島とその離島である長島の間に橋が架かった。筆者が高校を卒業し、島を離れてから9年目の春のことである。

長島に発電所を建設するために中国電力が独自に架けた「長島大橋」は、完成後に合併前の大崎町に無償譲渡され、現在は大崎上島町が管理する。

島で暮らす人たちは、30年以上も橋の架かった長島を見てきた。橋長400メートルの長島大橋も発電所の200メートル煙突も、好き嫌いを超えて日常の中に織り込まれているだろう。

しかし、盆暮れに帰省する程度の島外生活者にとって、橋が架かる前に過ごした時間の方が圧倒的に長い。小さなフェリーで渡るのが「本当の長島じゃ」という気分は今も抜けない。

岡山出身の内田百閒(ひゃっけん)は郷里をこよなく愛しながら、長じてからは駅のホーム以外に郷土を踏まなかったという。百鬼園先生と同じ心境とはいかないが、気持ちはよく分かる。

大崎クールジェン

新型コロナウイルスの感染拡大による移動の自粛が厳しくなる前の3月半ばに帰省した。

実家から自転車で10分ほどの長島大橋を渡り、「大崎クールジェン」を訪ねた。発電所建設のために架かった長島大橋は大型車両の往来を想定して設計されたのだろう。自転車で渡るのは骨が折れた。

中国電力と電源開発の共同出資で平成21年に設立された大崎クールジェンは、革新的な低炭素石炭火力発電の実現を目指して、運転休止中の発電所施設と敷地を利用し、大規模な実証試験を行っている。

プロジェクトは3段階に分かれている。平成28年から約2年かけて実施された第1段階では、石炭に酸素を吹き付けて高温でガス化し、効率よく発電する技術を実証できた。