新型コロナウイルスのクラスター(感染者集団)が発生した店舗や商業施設をめぐる自治体の情報公開に齟齬(そご)が生じている。似たような業態でも名前を公表されるケースとされないケースがあり、「相手方との合意がなければ公表は難しい」という自治体側の事情も見え隠れする。本来、感染拡大防止に資する重要な情報のはずだが、なぜこうした事態が起きるのか。「法の不備」を指摘する専門家もいる。(大森貴弘)
「夜の街」でも差
「感染者が店内で不特定多数と接触した可能性があり、利用者の連絡先も分からない。感染拡大を防ぐため、店側の同意を得た上で、公表した」
これまでに従業員や客ら100人を超える感染者が確認されている鹿児島市の繁華街・天文館にあるショーパブ「NEWおだまLee男爵」。鹿児島県健康増進課の担当者は、店名を発表した理由をこう説明する。
同店は、従業員らが衣装や音楽を変えながら踊るショーが売り物。1日に3~4回上演し、内容も定期的に変更していたといい、県外からも客が来るなど人気を博していた。ステージを囲むようにテーブルが並び、30~40人程度の客席が満席となっていた日もあったという。
ただ、歓楽街でクラスターが発生した店が、全て公表されているわけではない。
たとえば、東京都は新宿・歌舞伎町のホストクラブやキャバクラといった「夜の街」で感染が拡大していると再三警戒を呼びかけたが、20人近く感染者が出たとされる歌舞伎町のホストクラブなどの具体的な店名については、都として公表しておらず、店側に公表を促すこともしていない。
都福祉保健局の担当者は、施設名の公表基準について「不特定多数が利用し、その後の足取りを追えていない場合など、今後の感染リスクを考えて決めている」と説明。歌舞伎町のケースについて「店に来るのは常連客が多く、足取りもある程度追えている。(公表しなくても)感染拡大のリスクは低いと判断した」と話す。
風評、責任取れず
一方、都が積極的に名前の公表に踏み切ったケースもある。
新宿区にある劇場「新宿シアターモリエール」で6月30日~今月5日に上演された舞台「THE★JINRO イケメン人狼アイドルは誰だ!!」の出演者や観客らが、新型コロナに感染。
都は、感染の広がりを把握するためには施設名を公表し来場者に自主的に名乗り出てもらうことが必要だと判断、主催者側の同意を得て、今月10日に劇場名と舞台の名前を公表した。