在宅勤務の生物学者は、こうして新種の昆虫9種を最新機材なしに見つけ出した

3年で30の新種を発見したプロジェクト

ゴンザレスたちが調べている標本は、ロサンジェルス自然史博物館が2012年に始めた「BioSCAN(Biodiversity Science: City and Nature)」プロジェクトのために集められたものだ。主に家の裏庭や公共施設など、ロサンジェルス全域の30カ所に昆虫捕獲用のトラップを仕掛けて採集した。

昆虫の種類としては、小型のハエ目とハチ類、ハチに似たハエ目が最も多い。ブラウンたちはプロジェクトにボランティアとして協力してくれる人たちを募り、マレーズトラップの使い方を教えて昆虫を採集してもらった。マレーズトラップとは小型テントのような形の昆虫採集用のトラップで、虫が上方向へ飛んで逃げようとすると採集用の小ビンに落ちる仕組みになっている。

ロサンジェルスは世界中の文化が混在する都市だが、これまで都市部に生息する野生生物に関する調査はわずかしか実施されていない。特にロサンジェルス盆地を生息地とする昆虫については、ほとんど情報がなかった。

BioSCANプロジェクトのきっかけは、ブラウンが博物館の理事のひとりに対して、自分ならロサンジェルス西部にある彼女の家の裏庭で新種の昆虫を見つけられると断言したことだった。ブラウンは実際に新種を発見し、そこからプロジェクトがスタートした。

スタートから3年の間にブラウンたちは30の新種の昆虫を発見し、成果を論文として発表した。2018~19年にかけては、さらに13種を発見し、新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で博物館が閉鎖されてからは、9種を発見した。

昨年の11月以来、BioSCANのボランティアによる昆虫の採集は進められていない。だが、ブラウンたちはパンデミック以前に採集された数千匹の昆虫の同定という骨の折れる作業を続けており、それは在宅勤務になってからも変わらない。この作業はクローゼット掃除の学術版のようなものだ。つまり面倒で退屈だが、やるだけの価値はある。

「いまは研究室に入ることができないので、顕微鏡を使い、肉眼では見ることが難しい特徴を探すといった昔ながらの方法で種を同定しています」と、ブラウンは言う。「時間のかかる作業ですが、時間ならたっぷりありますから。観察する虫は体長が2mmしかなく、生殖器も微小です。形態学的に観察して種を同定するには、1匹あたり10~20分かかることもあります」

何万匹もの昆虫の標本を調査

今回発見された9種のなかには、ノミバエ科も含まれていた。ノミバエは地下に埋めた棺の表面にたかったり、棺に入り込んで死体の肉を食べたりすることで知られている昆虫だ。ノミバエのほかには、ネズミに寄生するウマバエと、ハチに似たハエ目がいた。ハチに似たハエ目の昆虫は、カリフォルニア州南部ではこれまで確認されたことがない種で、おそらく中米から花や食べ物にまぎれて移動してきたと思われる。

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