主張

「国賓中止」の決議 自民の及び腰に失望した

 自民党が香港問題の決議をめぐって、中国に腰が引けた対応をしたことに失望した。

 自民党の政調審議会が外交部会と外交調査会がまとめた香港国家安全維持法に関する対中非難決議を了承した。中山泰秀外交部会長らが首相官邸を訪ね、菅義偉官房長官に決議を手渡した。

 中国は国際社会の批判をよそに同法の施行を強行し、香港では多くの逮捕者が出ている。決議がこのような事態を「改めて強く非難」した点は評価できる。

 だが、その先がいけない。

 決議の原案は、習近平中国国家主席の国賓来日について「中止を要請する」と明記していた。

 国賓とは天皇陛下がもてなされる日本最高の賓客である。香港市民やウイグル族に対する弾圧の責任者である習氏は、最もふさわしくない人物だ。

 国賓来日の中止しか、日本の道義も長期的な国益も保つことができない。

 ところが、中国と太いパイプを持つ二階俊博幹事長や二階派の議員が原案に反発し、決議は「党外交部会・外交調査会として中止を要請せざるを得ない」という表現に変更された。

 極めて残念である。

 外交部会・調査会の自民党議員の多数は、党としての国賓来日中止要請にしようと努力した。それでも党全体の意見とみなされないための修正が施された。決議は、党議決定機関である総務会に付されることもなかった。

 自民党がこのように中国に忖度(そんたく)しても、在京の中国大使館は「乱暴な干渉」だと反発した。

 二階氏は周囲に、「日中関係を築いてきた先人の努力を、水泡に帰すつもりか」と不快感を示していた。

 この認識自体が誤っている。

 日本は天安門事件後、自由や民主、人権といった大切な原則を軽視して対中支援再開に走り、傍若無人に振る舞う今の中国を育ててしまった。そうした「先人の誤り」が現在の日本を苦しめている。その反省なしに、真っ当な対中外交は展開できないはずだ。

 安倍晋三政権もこれに気づかなくてはならない。安倍首相が国賓来日を白紙に戻さないから、自民党の混乱が満天下に示されたという皮肉な事態となっている。首相は自民党総裁でもある。二階氏だけを論難して済む話ではない。

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