WTO事務局長選 多角的貿易体制の維持・強化や中国との距離感などで判断

世界貿易機関(WTO)の本部=6月、スイス・ジュネーブ(ロイター)
世界貿易機関(WTO)の本部=6月、スイス・ジュネーブ(ロイター)

 政府は、WTOの次期事務局長選について、韓国産業通商資源省の兪明希通商交渉本部長ら8人の候補者の中から「多角的貿易体制の維持・強化に積極的に貢献でき、組織の透明性・説明責任を十分に果たせる人物」(茂木敏充外相)を見定める方針だ。

 日米を含む主要国には、国連の15の専門機関のうち4つのトップを中国出身者が占めるなど、中国の国際組織への影響力拡大に対する懸念がある。中国寄りと批判されるWHO(世界保健機関)のテドロス事務局長の例もあり、候補者の出身国と中国との距離感も、隠れた判断材料だ。

 選挙ではともに女性のナイジェリアのオコンジョイウェアラ元財務相とケニアのスポーツ・文化・遺産相のモハメド氏が軸となるとの見方もあるが、外務省幹部は「ナイジェリアの方が中国と適切な距離をとるのでは」と話す。政府は、候補者の所信表明演説などを踏まえ、米国など主要国と連携して対応する考えだ。

 一方、梶山弘志経済産業相の7日の記者会見での「日本としても選出プロセスにしっかりと関与していきたい」との発言を受け、韓国メディアは「日本の輸出管理規制をめぐり韓日間の対立が続く状況で日本側の立場を代弁する人物を推すという意図と解釈される」(中央日報)などと報じた。ただ、梶山氏は、日本として傍観せず、主体的に臨むとの考えを述べたにすぎず、韓国側の報道は過剰反応といえる。

 閣僚経験がない兪氏は、8人の中では「地味な存在」(外交筋)とされ、対立を深める米中など、主要国の利害を調整する能力の面でも懐疑的な見方がある。ある政府関係者は「日本メディアが韓国の候補ばかり取り上げるのは、他の候補に失礼だ」と語っており、日本政府は、はなから兪氏を眼中に置いていないとみられる。

(原川貴郎)

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