「カーボン・ファーミング」の導入は、真の意味でのエコな農業を実現するか

一方、ベレアーにとってのカーボン・ファーミングとは、自らが働くホーニッグ・ビンヤード&ワイナリーが進める持続可能性に向けた試みのひとつだ。ホーニッグでは太陽光発電による再生可能エネルギーの利用や有機農法、ミツバチによる自然受粉といった取り組みが盛んで、ここで生産されるワインのボトルにはミツバチのイラストが描かれている。

環境再生型農業とも呼ばれるこうした手法は70年代から取り組まれており、ホーニッグでは20年ほど前に始まったとベレアーは説明する。「特に新しいやり方ではありません。しかし、大規模農業では採用されなかったことで、多くの農地で土壌がやせてしまっています。これが健康な状態に戻ると、炭素や窒素などの有機物が再び土の中に蓄えられるようになります」

ホーニッグを含む15のワイナリーはナパ郡資源保護地区と協力し、農地の土壌への炭素隔離計画を策定した。ナパバレーでのワインづくりは、近い将来にカーボンニュートラルの達成を目指している。

ベレアーは農業改革だけで気候変動問題が即座に解決することはないと考えているが、こうした動きによって農業生産者の土地の捉え方が変化しているという事実を示すことはできると言う。彼女は「温室効果ガスの排出量を大幅に削減していかなければなりません」と言う。「これを実現するには、多面的な仕組みが必要なのです」

適切な土壌管理の意義

カーボン・ファーミングが、温室効果ガスの削減にはほとんど寄与しないと考える専門家もいる。カリフォルニア大学バークレー校の生物地球化学教授ロナルド・アムンソンは2018年の論文で、土壌に蓄積される炭素の量は季節変動が大きいことから、正確な計測が非常に難しいと指摘している。また、米国の農地の40パーセントは借地であることから、農業生産者が長期的な視点で土壌改良に取り組むインセンティブが低いとう社会的・文化的な障壁も存在しているという。

一方で、炭素隔離が有効であるかは別として、適切な土壌管理が有意義だとする意見もある。パデュー大学教授で地球・大気・惑星科学を専門とするティモシー・フィリーは、「土壌を最適な状態に保つことで農地の生産性が上がり、雨や風による土壌侵食への耐性ができます。また、保水力が高まることで干ばつなどの災害にも強くなるのです」と説明する。

フィリーは土壌中の炭素量をより正確に計測するための技術開発に取り組んでいる。これまでは大量のサンプルを専門施設に送って分析する必要があったが、小型計測器と過去のデータを使って季節ごとの炭素量の変化を推測し、実際の計測値に反映させるコンピューターモデルと組み合わせた新しいシステムが利用可能になるという。

フィリーはカーボン・ファーミングの法制化を巡って上院農業委員会に協力しており、新たな法律が土壌の保護と改良につながるよう期待しているという。「土壌の炭素含有量が増えていることをどう確かめるか考えようとするとき、市場と科学が一丸となって大きな進歩を遂げることができるのです」

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