正体は気象観測用気球? 消えた「謎の飛行物体」が残した課題

情報収集も対応せず

 謎の飛行物体をめぐっては、警察当局や防衛省も情報収集に追われた。河野太郎防衛相も6月19日の閣議後記者会見で「レーダー、その他で警戒監視を続けております」と明かしたが、結局、脅威とは判断しなかったとみられる。

 国土交通省運航安全課も航空法上の「航空機の飛行に影響を及ぼすおそれのある行為」に該当する可能性があるとして警戒したが、現時点で「安全への影響は生じていない」ため、特に追加の対応はしていない。

 空港の警備に詳しい警察関係者によると、気球のような物体は鳥や、たこなどと同様、防衛省などのレーダーに映らず、目視に頼らざるを得ないのが現状だ。

 これまでにもハンググライダーやたこなどについて警察が通報を受けて動いた例はあるが、大半は落下寸前など実際の被害が予想される場合。今回は県警がヘリコプターで視認しており、「実害がなく、むやみに動く必要はないという判断ではないか。ドローンなど本来の警察の脅威想定対象の監視もおろそかにしてはならない」と話した。

 米国でも、今年4月に米軍が公開した海軍撮影の未確認飛行物体の映像の正体は謎のまま。上空監視の難しさを物語る。

自衛隊出動は可能か

 ただ、気球だったとしても、悪意を持って悪用される可能性はないのか。

 静岡県立大の小川和久特任教授(安全保障)は「大型の気球などであれば、高度が下がったときに化学兵器を散布したり、劣化ウランなどのダーティーボム(汚い爆弾)を落とすこともできなくはない」としながらも、「他にさらに有効な手段があり、現実的ではない」と分析する。

 一方で、今回のような正体不明の物体について「仮に自衛隊がヘリでロープを飛行物体に引っ掛けて洋上まで誘導し着水、破壊するなどの措置を取ろうとした際に、災害派遣の範囲などで自衛隊が出動できるか。法整備が必要かどうかの検討が必要だ」とも指摘した。

 正体不明の飛行物体をどう監視し、仮に脅威になり得る場合、どう対処すべきか。謎の飛行物体は、重い宿題を日本に残していったのかもしれない。

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