新型コロナウイルスをめぐる世界全体の情勢は、3月前半に1つの分岐点を迎える。中国で発生したウイルスは欧米へと拡大し、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は3月11日に「パンデミック(世界的大流行)」を宣言した。
国内でも感染拡大を想定した準備が進んでいた。新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正だ。安倍晋三首相が2日の参院予算委員会で特措法改正に言及すると、10日に改正案を閣議決定し、13日に国会で成立した。異例のスピードが実現したのは野党の協力があったからだ。
緊急事態「現時点で宣言する状況ではない」
共産党は当初、特措法改正に反対したが、新型コロナ対策の足を引っ張れば世論の反発を受けかねない。立憲民主党幹部は「内閣支持率は思ったよりも下がっていない。反対一辺倒ではだめだ」とうめいた。
ただ、特措法に基づく緊急事態宣言について、首相は14日の記者会見で「現時点で宣言する状況ではない」と説明。政府高官も「緊急事態宣言はよほどのことがない限りしない。今でも十分対応できているわけだから」と語っていた。だが、この甘い見通しはほどなく崩れることになった。
3月9日 NY株2000ドル超下げ
3月に入り、新型コロナウイルスは内外の経済や市民生活に牙をむき始めた。
接客サービスでは感染拡大防止の対策が本格化。百貨店は催事や試食を中止し、スーパーでは食品の陳列販売を個別包装などに切り替えた。1日に解禁日を迎えた令和3年春卒業予定の大学3年生を対象にした就職・採用活動の説明会は中止や延期が相次いだ。
市場も揺れた。日本銀行の黒田東彦総裁は2日、「潤沢な資金供給」を約束する異例の談話を発表。米連邦準備制度理事会(FRB)も3日、臨時会合で大幅利下げを決定。リーマン・ショック以来の危機に、各国の中央銀行は金融緩和で協調し世界経済を下支えする姿勢を示した。
だが、9日のニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は、取引時間中の下げ幅が2000ドル超と過去最大を記録。東京市場も急落し、日経平均株価は節目の2万円を下回った。
3月13日 米が国家非常事態を宣言
2月に集団感染が発生したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」への対処は3月1日に全ての乗員が下船し、一段落した。4日に国内感染者は1000人を超えたが、うちクルーズ船やチャーター機の感染者が720人に上っていた。この時点で、新型コロナはまだ「外から持ち込まれるウイルス」だった。
しかし、世界に目を向ければ状況は加速度的に悪化していた。イタリアでは死者が9日時点で463人となり、2日間でほぼ倍増に。感染者、死者とも中国に次ぐ数字となり、医療崩壊の危機にひんしていた。
「今は自宅にとどまるべきだ。イタリアのため、みんなが生活を変えなければならない」。コンテ首相は9日の記者会見でこう訴え、翌10日から実施する全国での移動制限に理解を求めた。一部で地域間の移動を原則禁止していたが、感染を食い止めることはできず、全国に制限措置の対象を拡大した。
フランス、スペイン、米国などでも感染者が1000人の大台に乗った。各国は、感染の震源地である中国などからの感染者の流入を防ぐ水際対策から、感染・医療崩壊阻止といった国内対策に重点を移していった。トランプ米大統領は11日に英国を除く欧州からの入国禁止を発表した後、13日に国家非常事態を宣言。500億ドル(約5兆4000億円)の連邦政府予算を検査や治療に充てることにした。
習近平国家主席の来日延期を発表
対照的に日本政府関係者の関心は水際対策に重点が置かれていた。自民党保守派は中国からの入国拒否を求めていた。政府内には日中関係の悪化を懸念する声もあったが、中国側が事態を動かした。北京、上海両市が3日、日本を含む国・地域からの渡航者の移動を制限したのだ。
これ以降、政府は矢継ぎ早に決断を下していく。5日には4月に予定されていた中国の習近平国家主席の来日延期を発表。9日には中国と韓国全土からの入国を事実上拒否した。政府高官は一連の措置について、中国国内での移動制限を念頭に「きっかけがないとできなかった」と振り返った。
国内の重要行事やスポーツも次々と中止を余儀なくされた。11日の東日本大震災の追悼式は中止となり、プロ野球の開幕も延期。サッカーのJリーグも公式戦再開を断念した。そして日本高野連は初めて選抜高校野球大会の中止を決め、全国の球児が涙をのんだ。